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[コメント] カンバック(1990/日)

「世界のガッツ」が見せてくれた「ガッツの世界」
ペンクロフ

何もかもデタラメで、安くて、しみったれてて、不器用で、ヘタクソで、カッコ悪い。とても見ちゃいられない。しかし、これこそ間違いなく「ガッツの世界」だ。ガッツ石松が生きた拳闘はこんなくそったれ世界の中にあったのだろうし、ガッツはこの人生を愚直に生きて、世界王者にまで到達した。それは、誰にも否定できない歴史だ。

カンバック』は、ガッツ石松のワンマン映画でなければ意味のない映画だ。これが純然たるフィクションだったらただの最低映画で、金返せってな話である。しかしこの映画の背中には、ガッツ石松という実在のボクサーの人生がびっしり貼りついている。ボクサー・ガッツの存在が、この映画の意味を決定づけている。そしてそれが、映画を観た後のやりきれない後味の悪さを生んでもいるのだ。この映画には、単に出来の悪い映画を観た以上の、本物の後味の悪さがある。この映画には、ガッツが本気でこの映画を作ったこと、あちこちに頭を下げてでも豪華なキャストを揃えたこと、この映画のために過酷な減量を敢行したこと、そして莫大な借金を背負ったことなど、とても無視できないほどの香ばしい匂いがすでに観る前から染みついている。

これはガッツのガッツによるガッツのための自主映画、プライベート・フィルムだ。何かの間違いで劇場では阪本順治鉄拳 TEKKEN』と同時上映で公開された。冗談抜きで、プライベート・フィルムとしては最高の映画だとオレは思う。自分の生き様と生き方を、その愚直さ、不器用さまでそのまんま映画に出来たんだ。人間の一生の中で、一本しか作れない映画だ。そんなこと、誰にでも出来ることではない。しかしガッツ石松はやった。断固やった。それは、誰が何と言おうと絶対に素晴らしいことだと思う。

ただ実際に客として金払ってこの映画を劇場で観てしまうとねえ、そうとばかりは言ってられなくなるんですよ。この映画を金払って観るのは、やはりどう考えてもキツイ。こんなもん、人様にお見せする映画じゃないとさえ思う。そして、それでもなおガッツ石松は尊敬に値する男だ。『カンバック』とは、そういうとてもややこしい映画なのです。

(評価:★2)

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