[コメント] 限りなき鋪道(1934/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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字幕の全文は「だが現代の日本に於てはいまだに封建的な「家」の観念が若人達の純情を打ちひしがうとしてゐる」。忍節子の顔目掛けてのズームインなど、傾向映画の文法だ。彼女が姑に向かって云う言葉、「あなたたちが愛していたのは家柄だけなのです」は明治憲法・旧民法下では今とは別の意味を持っていたはずで、高度成長期にフランスの貴族社会を描くのとは立ち位置が全然違う(山内光は漱石の小説に出てくる高等遊民のような立場なのだろう)。
そしてその前に云う「貴女は私を愛そうとはされませんでした」というフレーズが凄い。本作は元祖少女漫画なのだろうか、あのジャンルの美味しい処を捉えている。いやしかし、少女漫画なら普通、最初に行き違いで別れた結城一朗とどこかでよりが戻るだろう。てっきりその収束だと予想して、平凡な話だなあと思っていたのだ。それが最後までほったらかしとは、まんまと騙された。
成瀬は戦中は密かに政治に抵抗しているし、終戦直後など、自分の得意技と正反対の、政治を声高に叫ぶ作品も作っている。本作が松竹専属の最終作だが、嫌われて去ったのではないのだろうか。ともあれ、一筋縄ではいかない監督だ。本作のような前史があってこその全盛期なのだと得心した。
演出は冒頭の銀座の活写や忍・結城のデートにおけるシュールな画など面白いが、全体に一貫せずつまみ食いに見えてしまう憾みがある。俳優では嫌味な姉の若葉信子が抜群に上手い。突貫小僧が会社の小僧さん(電話番)で登場するのも時代だ。坂本武のワンポイント・リリーフは山田映画における寅さんのよう、人気のほどが知れる。一方、映画会社のスカウトマンは笠智衆に見えるのだが何故かノンクレジット。喫茶店の客三井秀男は三井弘次の旧芸名であった。助監督は渋谷實と山本薩夫という豪華版。本頁のタイトルは誤植かと思いきやこれで正解、昔はこう書いたのね。
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