[コメント] 小さな兵隊(1960/仏)
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全編ミシェル・シュボール饒舌の図であり、後年の『彼女について私が知っている二、三の事柄』のようなモノローグ映画、『ありきたりの映画』や『うまくいってる?』などのようなダイアローグ映画の端緒なのだろう。レマン湖を挟む美しいジュネーブの夜景やコメディっぽいカーアクションの数々は面白く、後年の絵柄の無視のような過激さはなくバランスを保っているにしても。
ミシェル・シュボール、最初は「女と会うと喋るのに疲れるから厭だ」などと云いながら、アンナ・カリーナと二人きりになった途端に喋る喋る。「アメリカは車が好き」「中国人なんてどうでもいい」なんて科白もあり、後年から顧みると徹底していないように見える。「レーニンの言葉だ。倫理は未来の美学である」という科白は美しいが、拷問の方法についてもレーニンが引用されている。彼がアンナ・カリーナと最後に交わす、ここだけ爽快な握り拳の挨拶は、序盤に紹介のあったスペイン義勇軍の挨拶。「30年代には若者の革命があった。スペインには市民戦争。僕らになはい」という科白が直前にある。「遅れてきた青年」の意識がここにもあるのは興味深いものだ。
ド・ゴールが無茶苦茶だったからこそ、このテロ連鎖の筋書にはある種の正当性が担保されている訳だが、この親アラブの苦々しさは収束の苦々しさと見合っており、ゴダールの後年の政治映画の行方を最初から予告していたように見える。台詞を全部骨抜きにして映像だけ楽しんだのが80年代の渋谷文化だった。いやそれもアリだったのだろうが、これももう昔話だ。ただこの主人公の饒舌という手法はとても魅力的で、来るべき映画の可能性のひとつとして手付かずに残されているように思う。21世紀の遅れ過ぎた青年は別に今更なテロに向かう必要などない。造反無理な歴史の一頁である。
印象に残った言葉を幾つか。
「問い続けることが答えを見つけるより重要だ」「自分の顔を鏡で見ると、心で思っているのと少し違う」「現代の悲劇とは政治さ。ナポレオンの言葉だ」「君が死者と共有する特権とは、二度と死なないことだ」「神に思想はないはずだ」「右翼が政権を握ると左翼政策を取る。逆も同じ」「考えを続けよう。言葉はどうだ? 僕らの言葉はどこから来る? 人は黄金を探すように話し続ける。それとも真実を求めて、川底を漁る代わりに思考にのめり込む。どうでもいい言葉は残し、黄金の言葉を一つだけ見つける。沈黙の中で」そしてもちろん有名な「映画は1秒24枚の真実」。
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