[コメント] ナイロビの蜂(2005/独=英)
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ル・カレの小説を元に『シティ・オブ・ゴッド』(2002)のメイレレス監督が作り上げた作品。冒険小説家として有名なル・カレだが、その小説は割とあっさりしており、それが彼の味とも言えるけど(実際ル・カレの小説を忠実に映画化した『寒い国から帰ってきたスパイ』(1965)なんかは良い作品だけど、かなり退屈でもあった)、本作もやはり物語は淡々と進んでいく。その中で意外な事実というのもあんまりないし、銃撃戦や格闘などのアクションシーンもほとんど無し。終わり方も極めて素直。
まあ、はっきり言ってしまうと、あんまりにも淡々としすぎてるので、久々に映画観ながら眠い思いをさせられてしまった訳だが、物語はともかくここに出てくる設定の凄さには圧倒された。現在HIVの脅威に曝され続けてるアフリカという国をしっかりと捉え(ここではHIVの事は控えめに、新種の結核菌が主だが)、悲惨さをそのまま素直に映像化していた。この辺の描写の巧さは同じくブラジルの悲惨さを素直に描いた『シティ・オブ・ゴッド』の監督だけのことはある。
観てる間はその程度の感想でしかなかったのだが、しかし観終えた時、後味がすごくすっきりした気分になり、更に時間が経つに連れ、じわじわと面白さを感じてきた。 本作の後味の良さとは、変えようのない辛い現実が目の前に厳然と横たわる中、ただその中で家族の命を大切にする人々がいるという描写だった。どれだけ現状が辛く、しかも命を救うことが出来ない状況であっても、自分より死に行く家族のために命を賭ける人がいる。現実が悲惨だからこそ、その描写が見事に映えたのだし、結果的に最後の救いが与えられたのは、なんだかんだ言っても愛情あってのこと。
本作は“愛の物語”と銘打たれているが、この“愛”は極めて“博愛”に近い。それを衒わずにストレートに出せたのは強味だ。下手に演出過剰にならず、あくまで素直に作り上げたのが本作の最大の強味であり、そのストレートさが感動を作り出すのだろう。『シティ・オブ・ゴッド』に続いてこれだったら、やっぱりファンになっちまうよな。
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