コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 悪の紋章(1964/日)

アバンタイトルは女性の水死体。その水面下のショット。乳房も露わに映る。名古屋章のナレーションで、場所は大田区側の多摩川だと云う。この事件を追う警部補が山崎努で主人公。
ゑぎ

 殺害当日の怪しい車の情報から参考人(容疑者)として、佐藤慶及び戸浦六宏が浮かび上がるが、その途端、山崎は、麻薬取引にからんだ収賄容疑で逮捕され収監される。山崎の妻の北あけみがヤクザの花井−清村耕次から金を受け取っていたのだ。山崎はまんまと嵌められたというワケだ。

 そして山崎の出所シーン。刑務所側から撮ったドアの開くショット。こういうのを見た時、私は、『捜索者』ショットだ、と心の中でつぶやく。山崎は上野駅から京浜東北線に乗るが、車中には掏摸の谷晃がおり、新珠三千代のバッグからパスケースを掏る。山崎は東京駅で、谷晃を追いつめ、パスケースを取り上げる。これがお膳立てになって、当然ながら山崎と新珠は接近し、恋に落ちるのだが、それは中盤以降のプロットだ。あるいは、新珠がかなり間接的ではあるが、戸浦六宏に結びつくのはスモールワールドだろう(目くじら立てる程ではないが)。

 山崎は警察OBの先輩−大坂志郎のコネクションで志村喬が所長の興信所に勤め始めるが、自分を嵌めた組織(?)への復讐及び、迷宮入りしている多摩川女性殺人事件の真相を究明する、というところがメインのプロットとなる。

 本作も堀川弘通らしく(と云うと語弊があるかも知れないが)、シーンの良し悪しにはかなりムラのある出来だ。例えば、序盤、交差点で待つ山崎が、脳内でヤクザの花井と会話する場面(想像上の会話)。こゝの二重露光演出が、とても安っぽい画面なのにはゲンナリしてしまった。こういうテレビドラマみたいな処理は黒澤なら絶対にやらないだろう、と思うのは私の悪癖かも知れないが。と思えば、2回ある、山崎と新珠の九十九里浜の場面はなかなか良いのだ。人物が映っていない、浜と海岸線を撮ったショットがいい。本作のベストショットだと思った。ただし、新珠が自分の過去を語る際の、回想の映像化は、複数の意味で宜しくない(フラッシュバック自体が流れを悪くするということ、また、回想なのか空想なのかという問題)。

 あと、安部徹への拷問シーンも徹底した造型でいい。ちょっと安部が弱すぎるとも思ってしまったが。こゝで、山崎が別れた妻−北あけみのことを徹底的に痛めつけてもかまわない、みたいなことを安部に云うのも、映画としては良い点だろう。

 そして本作は後半になって、どんどん宜しくなくなる。展開は性急なのに、個々のシーンは冗長さが目につき始める。例えば、秋芳洞及び秋吉台のシーケンス。台地の穴を一つ一つ調べるという非現実さは私はどうでもいいが、かったるい見せ方でリズムが悪くなるのだ。あるいは、佐田啓二を脅す際に、山崎が同じ科白を3回ぐらい繰り返す部分。これも鬱陶しい。

 しかし、エピローグのようなラストシーケンスは悪くない。大坂志郎が「顔だけでなく背中にも悪人の紋章が貼り付いている」と云う、タイトルに関わる科白があり、その後、公園で遊ぶ子供たちと立ち尽くす大坂のショット。さらに原っぱとその向こうの工場の煙突のショットが繋がれる、この殺伐とした風景は、かえって落ち着きがいい。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・多摩川女性殺人事件に関する怪しい車の情報提供者は広瀬正一。警察署のお偉いさんに清水元。山崎の後任の警部補は遠藤辰雄

・東京のビルの大きな広告看板に、渡辺文雄の顔アップの写真がある。これで佐藤慶と戸浦六宏と渡辺文雄が揃う。

・山崎を嵌めた悪役メンバーには、柳永二郎もいる。柳の娘で佐田の妻は、岸田今日子

・新珠の郷里は岡山県英田(あいだ)。幼馴染で矢吹寿子。叔父さんに佐田豊

・山中温泉(加賀)の番頭で沢村いき雄。北あけみのアパートの最寄り駅は東急の旗の台駅。他にも、島根県の玉造温泉、JR美祢線の美祢駅などの場面がある。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。