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[コメント] 無法の拳銃(1959/米)

凄い。文句なしの傑作。雪と光が織り成す風景の美しさ。時間・空間の主題化と音響演出の見事さ。ロバート・ライアンバール・アイヴスともに登場当初は真っ当な悪役かと思わせておきながら、両名とも実はねじれたヒロイズムを持つユニックな造型で、物語に奥行きを与えている。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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全篇すばらしいというのはむろんのこととして敢えて云うと、私は前半部のほうが面白く見ることができた。誤解をおそれずに云えば後半部はラッセル・ハーランと「雪」の映画であり、ド・トスの演出の創意がほとばしっていたのはむしろ前半部ではなかったかと思う。

「アイヴスが死ぬまで」「アイヴスの部下たちが不満を爆発させ暴走するまで」「騎兵隊に追いつかれるまで」、これらを刻々と迫る一種のタイムリミットとして設定し、しかし敢えてそれを何日後あるいは何時間後といったように確定的には設定しないことで、凄まじい緊張感が生み出されている。このあたりの時間の描き方はまさに圧倒的で、その緊張感があの強烈なダンスシーンや無謀な雪中行軍を準備かつ正当化している。

舞台装置としての酒場の使い方も優れている。「映画の中の階段」をひとつのテーマとして映画を見ている私にとって、ここでの階段の造型および機能は非常に目を惹くものがあるし、またカウンター上にボトルを転がし、転がりきった瞬間にアイヴスが登場する(これがまた吃驚ものなんですが)というショットの「横ドリー」の必然性にも惚れ惚れするばかりだ。ダンスシーンで無理矢理踊らされる女が壁に押しつけられ、壁にかかっていた額縁がずれる、といった細かいところにもド・トスの抜群の映画的センスの良さが顕れている。

音響演出もいい。雪は音の反射と吸収において独特の具合を持つが、この屋外シーンの銃撃音響においてはそれが完璧に再現されており、かつ大きな映画的興奮を導いている。

(評価:★5)

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