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[コメント] おかしなおかしな大冒険(1973/仏=伊)

小説家の日常とその執筆中の小説の映像化を錯綜させるメタフィクションって、よくあるパターンではあるけれど、このような趣向の作品の中ではとても成功していると思う。
ゑぎ

 開巻はトランペットのベルのアップでメキシコ音楽。トラックバックして楽団を見せる。祭りか。ダンスする男女の横移動ショットに男がフレームインし、公衆電話ボックスへ。するといきなり、電話ボックスが釣り上げられる。これがヘリコプター。電話ボックスがヘリで海に運ばれるショットを繋いでクレジット。海に落とされ一段落かと思っていると、海中でサメに襲わせるという展開が待っている。サメに腹部を噛ませる演出にも感心する(ちょっとサメが小さいが)。面白いオープニング。

 諜報部員のジャン=ポール・ベルモンド−役名はボブ・セントクレアも、登場から戯画化されている。無造作に敵をやっつけていく乱闘シーン。これも面白い上に極めてカッコいい。メキシコで出迎えるタチアナはジャクリーン・ビセットで、もうその登場ショットから絶世の美女と思うが、ショットによってはメチャクチャ可愛いとも思う。オープンカーにジャンプして乗るベルモンドをスローで見せるショットが良く、新婚旅行に見せかけた敵や、椰子の木の敵を射殺する演出にも笑ってしまう。

 ピーカンの砂浜で、ベルモンドが敵の部隊と対戦(銃撃戦)する場面。そこに、なぜか掃除機をかける女性が現れ、その掃除婦は砂浜に立てられたドアの中へ。すると中はアパートの一室で、タイプライターを打つベルモンドがおり、窓の外は雨が降っている、というこの場面転換の鮮やかさには驚く。作家のベルモンドはフランソワ・メルラン。以降、彼の周囲で出会う人々がボブ・セントクレアを主人公とする小説の中に登場し、酷い扱いを受けたりする。例えば無愛想な電気屋−ジャン・ルフェーブルは小説の中ではマシンガンで蜂の巣にされる。あるいは、前借りを認めてくれない出版社の代表シャロン−ヴィットリオ・カプリオーリは小説の中では敵(アルバニア軍)のラスボス・カルポフ。そして、アパートの上階に暮らすメガネの女学生クリスチーヌがビセットだ。

 さて、小説の映像化部分はサービス精神満点で、実に過剰に見せてくれるのだが、特筆すべきは、カルポフのアジトに拉致されたボブとタチアナの場面だろう。こゝの大乱射演出はペキンパーみたいな血糊噴出スローだ。さらに物凄いスプラッターになり、カンフー映画みたいになる部分はやり過ぎにも思えるが、一方、血液の噴出の造型が丁寧で感心もさせられる。また、ロケ撮影では、テオティワカン遺跡のピラミッドが何度も画面の背景に使われて、空撮ショットも実にいい。

 そして、エンディングでは、全く予想に反して、タチアナは酷い扱いを受け、ビセットはドロドロの汚れ役になるというのが脱臼技で唖然とする。ボブとカルポフの帰結もなんという展開。しかし、ベルモンドのファンとしても、ビセットのファンとしても、私は大いに満足した。フィリップ・ド・ブロカの中でも、最も面白い作品の一つと思う。

(評価:★4)

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