[コメント] 音楽喜劇 ほろよひ人生(1933/日)
本作は『マダムと女房』から2年後ぐらいの映画だが、ミュージカルだ。冒頭は「ようようまち駅」のシーン。千葉早智子はビール、藤原釜足はアイスクリームの売り子。藤原が、千葉に気があることは明々白々で、藤原は「いつか2人でビアホールを」と云う。本作の主役はこの若き(28歳頃の)藤原釜足なのだ。駅の場面は、ホームをフルショットの横移動で見せる。停車した電車の装置は書き割りのようで、チープだが、なかなか味のある美術だ。大川平八郎が電車から降りてきて、千葉に「今夜いつものところで」と云う。
大川の「いつものところ」は公園のベンチ。先に古川緑波がおり、神田千鶴子とセントルイスブルースから始まる歌の掛け合いシーンがあるが、この二人は、ゲスト扱い。こゝだけの出番ですぐにハケる。ベンチに千葉が来て、後から大川、千葉の背中側から目隠しをする。千葉に捧げるという楽譜を取り出し、レコード会社に売れたと云う。タイトルは「恋の魔術師」。この歌が、本作全編で繰り返し唄われることになる。
このあと、大川は曲が売れすぎて音楽学校を放校処分になり、故郷に帰ったりするが、結局、千葉と結婚する。一方、藤原は売り子の仕事をクビになり、ルンペンに。この中盤以降は、藤原のプロットが中心で、大川の場面が挿入される、といった構成になる。中盤の見せ場としては、ルンペン仲間?の丸山定夫と一緒に釣りをしている際に、宝箱を吊り上げたことから、泥棒二人(横尾泥海男と吉谷久雄)に追いかけられる、スラップスティックなチェイスシーンがある。丸の内辺りだろうか、広い通りを走る俯瞰ショットがあり、ビルの非常階段などでも追いかけ合いをするのだが、かなり緩い見せ方だ。
終盤の見せ場は、裕福になった大川と千葉の邸宅が、くだんの泥棒たちに狙われるのを藤原が防ぐというシーケンスだろう。まずは、藤原が邸内に先に侵入するが、当然ながら、大川と千葉から泥棒と間違われる。こゝで、なぜか両者が科白なしのパントマイム演技を繰り返すのだが、私は、これは可愛い演出だと思った。藤原は二人を二階の奥の部屋へ押し込め、一階のリビング全体に、音が氾濫する装置を作る。これもチープな造型だが、映画における音響への志向、という時代的な要請(あるいはモチベーション)が良く分かるシーンになっている。
そしてエピローグ的なラストシーンはとても良いと思う。主要登場人物が全員登場する、ビアホールでの大団円で、特に藤原と大川、千葉の絡ませ方が粋だと思うし、ミュージカルらしい大がかりなセット美術と、ホール内の奥(壁に千葉の写真が飾ってある)から、店の外の通りまでクレーン後退移動する撮影も見モノだ。
#備忘でその他の配役等を記述します。
・クレジットで一番最初に出る徳川夢声もゲスト出演のよう。音楽学校の校長。徳川は、別の役でも再登場するが、同一人物という設定だろう。
・駅のホームの弁当売りで、大辻司郎。藤原と仕事そっちのけで酔っぱらう。
・ビアホールのシーンでは、若き堤真佐子が女給役で顔を見せる。堤と一緒に歩くのは宮野照子か。いずれもエキストラレベルの出演だ。店内の装飾で、ヱビスビール、サッポロビール、アサヒビールの文字が見える。
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