コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 父親たちの星条旗(2006/米)

罪の意識というものから切り離せない「戦争の暗部」を晦渋に満ちた良心で描いたGOODムービー
junojuna

 善悪の彼岸を越えた勝者と敗者の対峙に生まれる行き場のない焦燥を良心的に描いて秀逸な自己内省映画である。その内省的視点を得て『硫黄島からの手紙』が製作されるこのプロジェクトはイーストウッドの無常観を表す作家性が現れていて大きな意味がある。この映画は決して悪を糾弾するものではなく、伝えられているものはどこへも行き場のない憂鬱な人生の陰影である。過酷な戦火をかいくぐった帰還兵たちが、英雄という付与されたイメージに煩悶する姿が悲劇的に描かれることで、人の生き様における無常観は計り知れない深淵を見せる。罪とは付与されるものではなく自らの意識の中に生まれるものとして克服しがたい「負なる因縁」である。同時に英雄と奉られることのアイデンティティの乖離が、罪の意識を一層色濃いものとして運命論的ドラマの強度を湛えている。イーストウッドドラマに顕著である「過去への執着」は社会的な視野に至って晦渋の立場にある。しかしモラリストである彼のスタンスが真摯に表明された本作は、新たな成果として巨匠の域に達した。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。