[コメント] 父親たちの星条旗(2006/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
冒頭、信頼できそうな老人が語る。「戦場の実態というものは想像を絶するほど残酷なものだ。だが正当化しないと。判りやすい事実が必要だ。言葉などなくてもいい」「写真の効果は絶大だ。劇的な写真は時に戦争の勝敗すら決める。ベトナム戦争で南ベトナムの士官が捕虜を撃つ瞬間を捉えた写真、あの一枚でアメリカは負けた」とは極論だと思うし、「当時、国は破産寸前で人々は戦争にウンザリしていた。たった一枚の写真が状況をひっくり返した」「星条旗の写真から誰もが勝利を連想した。待ちに待った勝利を」と続くナレも過大評価のように聞こえる。
しかし、第二次大戦中の財政破綻の話は興味深い。財務大臣は嫌がる三人に「前回は国際がまったく売れず紙幣を増刷した。ドルは今や紙ずく同然。軍艦も戦車もつくれない。これでも茶番か。140憶ドル必要だ」と語る。戦時国債の宣伝は戦中のハリウッド映画のタイトルによく出てくるものだ。財務大臣の前で虚飾の英雄三人が、写真は二度目の掲揚時のものだと云って揉めるのは、事態を劇化させる作劇の手法なんだろうが、そんなもん事前に調べておけよと思わされる。
かくしてヒーロー三人は戦時国債の募集に駆り出され、以下、イーストウッドらしいアメリカ式虚飾の式典が延々描写される。相変わらず善悪明瞭なこの監督の作劇は安く、だって国債も必要じゃんと思わせられるが、旗立てただけだ、英雄気取りは耐えられないというアダム・ビーチの告白は得心できる。ネイティブアメリカン兵である彼が「斧で日本兵を倒したと云え。その方が面白い」など白人の常識で微妙にディスられ、「インディアンお断り」の酒場で彼が怒って椅子振り回す件もある。
彼を救う衛生兵ライアン・フィリップには、戦友は人種を越えるという裏主題が感じられる処。しかしライアン・フィリップが戦後まで面倒みる訳でもなく、アダム・ビーチは貧乏と逮捕歴の末に野垂れ死にするネイティブアメリカンの不幸が放り出される。本作が友情物語で纏められるのは限界がある。困窮した戦友を経済的に助けるのは簡単ではないだろうけど、それなら格好つけ過ぎに見える。
戦場とツアーを同時並行で描く手法は良かったり悪かったりで、なんで三人が内輪で喧嘩しているのかで興味を引っ張るが判り難くもある。衛生兵主役の戦争映画は余り記憶になく、負傷兵の描写は厭戦描写に説得力を持たせている。しかし収束、「英雄とは人間が必要にかられて作るものだ」「父と戦友たちが危険を冒し傷を負ったのは仲間のためだ。国のための戦いでも死ぬのは友のため、共に戦った男たちのためだ。彼らの栄誉をたたえたいなら、ありのままの姿を心にとどめよう」と纏められ、戦闘終結後の硫黄島での無邪気な海水浴シーンで映画が〆られるのは、厭戦映画かと思って観ていたから意外だった。別に嫌いじゃないらしい。
序盤の硫黄島へ向かう戦隊、兵隊がひとり低空飛行の飛行機に興奮して海に落ちるが救助されず、「編隊を乱せないんだ」と説明される件が止まらない戦争のいい隠喩。この艦隊はとても上手く撮れていて、『硫黄島の手紙』では半端だった戦闘シーンもここではやたら力が入っている。遠景のCGは絵画的でハリウッド古典式、つねに煙が棚引くのがソ連映画っぽい。日本兵の捕虜斬殺の写真が回されて兵隊たち沈黙という件があり、拷問死の描写もあり、日本軍もよく戦ったという『硫黄島からの手紙』と齟齬を来している。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。