[コメント] 弓(2005/韓国)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
まず、カン・ウンイルの音楽に心を揺さぶられる。近年、これほどに情感迫る劇伴音楽があっただろうか?
この老人と少女の愛の巣に嫌悪感を催す観客もあるだろうが、意に沿わぬ結婚などは人類史上珍しくもないものだ。そしてその間にはいささか幼くとも愛情が存在している。他者に気持ち悪がられる理由はあるまい。
そして老人チョン・ソンファンの「悪行」に似合わぬ少年のような瞳も、罰するには価しない。彼は少女に劣情を催し破廉恥な行動に出る男たちに(あるいはそれが誤解であるときでも)片っ端から矢を射、追い払ってきた。それはまるで美女を敵から守る野獣の必死さだ。そして町に出てゆくごとに婚礼衣装をそろえてゆき、少女との結婚の日付を目を輝かせて日を早めてゆく、この無邪気さはどうだろうか。彼の境遇は語られないが、家族をもって痛い目を見ているか、あるいは全く女性に縁のない生活を送ってきたかなのだろう。
彼にとっては何物にも代え難い少女ハン・ヨルムは幼い時から彼が育てた至宝だが、本能ゆえか男を知らない癖に男に興味をもち、誘惑すらする。(その表情の千変万化は実に愛らしい。上目遣いに老人を睨みつけるその目すらも、だ)そんな彼女がある青年に出会ったことが愛情に決定的な打撃を与える。韓国でも拉致監禁は犯罪であり、それを訴える彼は絶対的な正義とともにあることがタチが悪い。野獣は手も足も出ず、少女と青年の乗ったボートの綱で首を括ろうとする。
だが、これを哀れんだ少女は老人の最後の望みを聞き、結婚式を挙げさせる。だが初床を前にして老人は矢で天空を射、そして海中に身を投げる。このとき老人は一本の矢にその姿を変じたのか、股を広げる少女の陰部あたりに突き刺さり、飛び散る鮮血から少女は処女であったことが明白なのにもかかわらず、彼女を歓喜に悶えさせる。それは少女の思いやりだったのか、あるいは老人の意地だったのか。
こうして少女は老人との遊戯を終え、青年とともに老人の遊び場だった船を後にする。老人は消え去り、その小世界だった船はゆっくりと沈んでゆく。少女の旅立ちがこんなかたちで為されたことを、おそらく老人は怒ってはいないだろう。少女は老人の相手をするには、もう既に成長しきっていたのだから。
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