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[コメント] エノケンの魔術師(1934/日)

榎本健一の本格的な映画進出(PCL映画製作所とのタッグ)が『エノケンの青春酔虎伝』とのことなので、本作はその同年の作品であり、云わば第二弾ということになる。当然ながら本作もミュージカル。
ゑぎ

 監督は、前年にPCL第一回作品『音楽喜劇ほろよひ人生』を担当した木村荘十二だ。ちなみに、PCL映画製作所は現在の東宝の前身。お話は希代の魔術師エノケン(劇中の役名もエノケン)を二人の興行師、ゴオルデン座の支配人−藤原釜足とバット座の支配人−柳田貞一が取り合うというバックステージもの。先に契約したゴオルデン座への出演を阻止したいバット座は、2人の美女にハニートラップを依頼し、さらにギャングを使ってエノケンを拉致したりする。

 主要な配役を先に書き足しておくと、エノケンのマネージャーでいつも一緒にいるのが中村是好。前半かなり目立っているバット座が送り込んだハニートラップ要員のバラ子とロラ子は近江つや子高清子という人だが、私は初めて見た。この2人に対照的なゴオルデン座の清楚な接待要員として、支配人の娘令子−北村季佐江と「スターのマリ子」と呼ばれる堤真佐子が出て来る。女優では堤が最も有名だし、『青春酔虎伝』で既に準ヒロインという大役だったので、本作ではヒロイン役かと予想したが、イマイチ目立たないのが残念。あと、ギャングの中には岸井明如月寛多がおり、岸井はデカいというだけでなく、ちょこちょことエノケンに絡んで目立っている。尚、二村定一が歌手役でクレジットされているが、彼の歌唱シーンはなかった(ラスト近く、エノケンの歌唱場面の後、ロングショットでエノケンと一緒に映っているのが二村かと思う)。これはカットされたとしか思えない。

 エノケンが見せる魔術に関しては、ほとんどショット繋ぎで物や人を出現させたり消滅させたりする描き方で、今見ると特技(特撮)自体には驚きはないが、それでもこの映画ならではの描写は楽しいものだ。ただし最も驚いた画面は、終盤のショウ(舞台本番)のシーケンスで出て来る、沢山のレビューガールが小さなボックスのような部屋の中に並んで見える画面造型だ。これって二重露光で実現させているのだとは思うが、どこまでが実際の装置なのだろう。

 また、このような特技の画面と共に書いておきたいのは、普通に複数人物が会話する場面での切り返しや、パンとドリーの寄り引きを組み合わせた流麗なカメラワークで、こいったところでの手抜きのない安定した見せ方が木村荘十二の技量なのだと思う。例えば、エノケンの大切な帽子が見つからないとショウが開幕できない、というプロットがあり、帽子が見つかって、彼が「月光値千金」のメロディーで唱い始めるミュージカルシーン。これがクレーン撮影と思しき俯瞰の後退移動ショットであり、続けて指揮者(音楽担当の紙恭輔か)の腕時計アップからトラックバックして本番舞台を映し、ショウの開幕を表現するこの演出には瞠目させられる。

(評価:★3)

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