[コメント] 硫黄島(1973/日)
戦場カメラマンにとって最も勇気ある写真は、突撃する兵士を正面から捉えた写真だという。すなわち、突撃する兵士よりも先に前進し、かつ敵に背中を向けて撮影しなければならないからだ。
本作にはそういった緊迫感ある映像はまったく無い。戦争映画の延長として本作を鑑賞すれば、その淡白さに眠気が起きるのは必至である。
カメラマンが安全を確保されての映像であるから、緊迫感ある映像は無い。遠くに着弾する艦砲射撃も、ただ土煙が巻き上がるだけである。いや、その着弾地の岩穴の奥深くでは阿鼻叫喚の地獄図が繰り広げられているのかも知れないが、それはまったく伝わってはこない。
初鑑賞時には「太平洋戦争最大の激戦地」であるが故、カメラマンなぞ入れる余地など無かったからなのではないかと「好意的」に受け取っていた。だが、その後も数々のドキュメンタリーを観るにつけ、凄惨な硫黄島の映像が数多く記録されているのを知り、再度鑑賞して本作のこのヘタレさはいったい何故なんだろうかと疑問に思いました。
本作は撮影こそアメリカ海兵隊であるが、構成・編集はすべて日本人による邦画であることを今回知り、ドキュメンタリー映画の永遠の課題である「どこを切り取り編集するか?」の典型的な問題作なのではないかと思いました。
日米両国の兵士(国民)が殺しあう姿は描かず、遠景での砲撃のみ。主体は捕虜の救出と治療に重きを置いた編集。笑顔の捕虜たちと敵にも優しい米軍兵士。
岩穴から弱々しく這い出て来る日本兵に手を差し伸べ、肩を貸して歩くアメリカ兵。この映像から受けるイメージは、そのまま戦後の日米関係のあるべき姿(アメリカが考える)を写しているかのように感じます。深読みし過ぎかもしれませんが、本作が取捨選択した映像集の内容を考えると、そこまで考えても怒られはしないかもしれません。
そのような理由から、人間の生死を写しだしたドキュメンタリーにも関わらず★3という不謹慎な点数を、あえて点けさせてもらいました。
ただし、やはりドキュメンタリーという真実の重みはあります。私たち日本人は、遠景の土煙の地下でどのような地獄絵がその瞬間起こっていたかを推察し、涙ぐむ努力をしなければならないかと思います。
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