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[コメント] あなたになら言える秘密のこと(2005/スペイン)

多くの人間が他人には言えない重荷を背負っている。そして、それでも生きようとする人間の強さをこの作品は伝えようとしている。☆3.9点。
死ぬまでシネマ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







苦しみ乍らも生きようとする、その事を観客に伝えようとするところで、この映画にもアルモドバル印を感じた。

ハンナの苦しみは確かに映画のバランスや観客の予測を崩す程の重みを持っている。しかしそれが明かされたことで、ではジョセフは自らの苦しみが軽くなり消散したと感じたのだろうか? そんな事はない。ジョセフはハンナの苦しみの過酷さに驚き、自分だけが絶望に落されていると思っていた事を恥じたが、彼女を踏み台にして自分が楽になれると思った訳ではないのだ。

ジョゼフはハンナを追い、ハンナはジョセフから一旦は逃げようとするが、彼の言葉が信じられる事を確信してそれをやめた。たとえ信じられる人物を前にしても、逃げるしかないひとも多い筈だ。しかし、ハンナはジョセフから逃げなかった。ジョセフも、逡巡しつつもハンナを諦めなかった。

海底油田の採油場には現実世界で傷ついた多くの男たちが流れついている。彼らのひとつひとつの重荷は語られる事はない。しかし彼らが生きようとしている事は伝わってくる。

人間は生きたいのだから。自分ひとりでは自分を呪うしかなくても、自分を救う事が出来なくても、大切なひとを想う事は出来るのだから。

     ◆    ◆    ◆

冒頭、ハンナの母親と思われた女性はハンナの心理療法士だった。ハンナは電話口で語らず、彼女もそれ以上問わない。ジョセフが記録を見るのをやめた事は意味深いと思う。「忘れない」為に身を裂く思いで残された記録。しかし我々はそれを見る事が出来るのだろうか。ジョセフはその記録が「在る」事を記憶していればいい。

ハンナにはまだ彼に言えない多くの秘密があった。その一つが最後に女の子の語りで明かされる。それはジョセフにも言わなくて良い。言える時がくれば言えば良い。ジョセフが彼女の重荷の存在を知り、ハンナが彼の重荷の存在を知って、ふたりが共に生きて行ければそれでいいのだ。

(評価:★4)

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