[コメント] 71フラグメンツ(1994/オーストリア=独)
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ニュースはボスニア和平難航に次いでマイケル・ジャクソンの幼児虐待を報じる。この、分裂症と云われて久しいニュース報道の典型を、(別に否定する訳ではなく)本作は作劇に盛り込んでいる。この方法論は物語の中心を外すことにあったのは疑いない。
我々はいつもこのような、本質の知れない断片に取り囲まれている。本質の想像は観客に委ねられている。本作はそのほうが、転結整えた作劇よりリアルだと主張している。それでもって本作は充分な成果を上げている。
難民少年を保護する夫婦は、先に引き取ったなかなか馴染まない少女をどうするのか宙吊りに終わるため、いつまでも心に残る。再訪した銀行で老人は銀行員である不仲の娘とともに射殺されたのだろう、この親子にとってそれは救いだという残酷なニュアンスも、解決されることなく放り出される。いつまでも気になる。
卓球青年に至っては極端で(彼は他にも登場しただろうか)ひとつの映像表現として愉しい。ただ、乱射に至る青年は「短気は損気」で纏められてしまう造形しか与えられておらず、一方的で膨らみに欠けた。断片でも物語の発生を抑え込むのは難しいし、それならもっと物語を展開したほうがいいのではないかと思えてしまう。
繰り返されるボスニア報道は、近隣国ゆえの生々しさがあり、難民少年を保護する夫婦にリアリティを与えている。彼の背後には本国送還された多数の少年がいるのだろう。私的ベストショットは難民少年の、地下鉄での対面の少年とのパフォーマンスによる無言の交流。ハケネは意外と優しい奴だと知るのは愉しいが、しかしこれも電車飛び込みのニュアンスがある。
老人の娘への長電話の件もいい。ここなど優れて演劇的だ。「爺さんは拗ねているのさ」「生きていて悪かったな」「真面な人間の話題は自分のことぐらいさ」「気が咎めてもしらないぞ、そうさお見通しさ」。
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