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[コメント] カフカの「城」(1997/オーストリア=独)

ストローブ=ユイレの影響か、作家性を禁欲して淡々と綴られた短縮版で、よい具合にこの大作を鳥瞰できる小品になっており、色んな発見がある。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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オーソン・ウェルズの『審判』はじめ、カフカを撮った映画は作者の手法が全面に出るものが多いが、本作はこれと対極にあり、ストローブ=ユイレの『アメリカ』に近い。「城」は(通常のカフカのイメージに反して)登場人物の饒舌甚だしい作品で、もちろんそれが魅力なのだが、シンプルに筋を纏めた本作は巧みな編集で要点が明快、しかも偏らない。この方法もアリだなと思わされる。ナレーションは貧しいし、城を映せないキャメラも気の毒だが、制限のなかでいい作品になっている。美点は俳優で、フリーダのズザンネ・ロータは秀逸、その他美男美女が出てこないのがいい。しかしやっぱり、十時間ほどの尺で、潤沢な美術で撮ってほしかったとも思わされる。

この鳥瞰で判りやすく伝わってくることが幾つもある。俺は測量技師だと云うKのハッタリを城がなぜか了解してしまう悲喜劇であること。助手ふたりの道化は職業を求めるKのパロディであること。やたら女にモテるKという筋が物語を単純化から遠ざけていること。フリーダがKを捨てるのは差別されたオルガの一家(ユダヤ人の立場を想起せざるを得ない)を訪ねたからであること。「審判」と本作のKとは、フランツ・カフカではなくて父のヘルマン・カフカなのだろう。他作にあった実存的不安をまるで感じない、猪突猛進に生活を求めたユダヤ人である父の、本作は皮肉な肖像に見える。

(評価:★4)

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