[コメント] 魅せられて(1949/米)
犯罪映画というよりは、メロドラマに近いが、画面の濃密さ、スリリングさが、凡百の映画と一線を画している。オフュルスらしい吃驚するようなカメラワークはないけれど、小さな移動撮影と、丹念なカット割りで恐るべき緊張感が創出されているのだ。
例えば、ヒロイン、バーバラ・ベル・ゲデスとロバート・ライアンとの出会いのシーン。夜の港。船着き場。霧の中、ボートが近づいて来る際の、モーター音とライトとの連動。桟橋に上がって来るライアンに少し寄っていく画面造型のセンス!あるいは、ライアンの豪邸内の美術装置がすごい。玄関を入ったところのロビーの広さ、天井の高さ、階段の豪華さ。ライアンが、応接室のビリヤード台の前で、球をもて遊びながら(台上に球を投げながら)、画面奥のベル・ゲデスと会話するシーン。いきなりベル・ゲデスに向かって球を投げないか、ヒヤヒヤしてしまった。何という緊張感だろう。
また、本作がハリウッドデビューのジェームズ・メイソンは、30分以上経ってから登場するのだが、ライアンが悪役とするなら(単純な悪役ではないが)、メイソンはヒーロー側だ。メイソンとベル・ゲデスがクラブでダンスをするシーンの長回しは、クレーン撮影だろうか。大勢の客たちが密集したダンス会場で、ずっとカメラが二人を追う。こゝが、一番オフュルスらしい、流麗さを感じられる移動ショットだろう。屋内でも全般にカメラはよく動くが、小さな動きが多いのだ。
ラスト近くのライアンの顛末は、展開も見せ方も唐突だが、画面はやはり見事の一言だ。手前のライアンと、画面奥で部屋を出るベル・ゲデスの縦構図。この後、救急車で運ばれるゲデスと付き添うメイソンのやりとりも良く、さらにハリウッド的なエピローグによるオチが付くのだが、車の中のゲデスとメイソンで、エンドでも良かったのに、と思った。
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