[コメント] 巷に雨の降るごとく(1941/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
榎本健一は紙芝居屋。洗濯ものが跨いで干される路地をチンドン屋のように太鼓叩いて、子供たちを引き連れて歩み、工場や商店街や神社を通り、拍子木叩いて紙芝居。演目は「涙の別れ道」という娘十八継母虐めのメロドラマ(この話は山根寿子の身の上に重なる)で、おかみさんたちも集まってくる。紙芝居は子供向けばかりだと思っていたので発見があった。子供は内容は何でもいいんだろう。遅刻して駆けてきた山形誠子が路上のバケツ引っかけるといういいギャグが何度も繰り返される。彼女は小さなカフェ「サロンフジ」の経営者。「30銭買うからさ」と云っているが、紙芝居屋が何を売り物にしているのかは描写されない。焼き芋屋がやって来て邪魔するというギャグもある。
エノケンの住まいは共同流しのアパート日の出荘。同じアパートの月田一郎とみのる食堂で晩飯。店員の若原春江は外食券下さいと云っている。外食券は戦中からあったのも発見。いつも暇そうな店で、若原は片隅の柱に凭れてボーとしている。これがいい風情だ。エノケンに気があって、相手してくれないのでムクれている。この演出が繊細でとてもいい。
エノケンはサロンフジの二階に現れた山根寿子を思い出せず悩み続け、流しアコーディオン弾きの月田は同店に赴いてヤクザの囲い者と突き止める。インテリくずれの月田は店に入っていって「旦那どうですおひとつ」と酒を注いでリクエスト求めて周り、相手にされずに路上で如月寛多のヤクザの手下に殴られている。たいへんな仕事である。
暖簾のかかった「コーヒーの店」は食堂と同じような内装。雷が鳴ると停電し、すぐ復旧し、エノケンが雨宿りに休んでいると山根が山形に頼まれたからと傘届けに来て、私は貴方を覚えていると語り、過日、路上で泣いていて財布を拾ってもらったと回想される(エノケンが気付かせるために太鼓叩くのが細かい)。
山根はその後店からいなくなる。アパートは階段下の廊下で車座になり柳田貞一の司会で常会。ここには共用のラジオが置かれてあり、後日には演芸大会が開かれている。議題は、表で商売する者ばかりだが梅雨が長いらしく先行き厳しいから貯金しようと合意。ひとり団扇太鼓叩く托鉢坊の中村是好だけが金銭に拘ることは嫌いだと退席。彼は宿代滞納して夜中に部屋で太鼓叩くアパートの嫌われ者。ある晩、是好は山根をアパートに連れてくるが、みんなは彼から山根を引き離す。悪気はないのに是好は攻撃されっ放しである。彼は演芸大会の日に夜逃げしたのが発見される。
山根はいなくなりエノケン心配。ラジオは天気予報で雨の様子を伝え続けるのだが、夜11時の放送終了後にビブラフォンで「坊やはよい子だ」を流すのが暗い廊下に響くのが寂しくてとてもいい。山根は山形に誘い出されて如月寛多に囚われていて、エノケンと結婚しているのだと法螺をふき、エノケンは連れてこられて殴られ、階段落としやベランダからの突き飛ばされの軽業みせつつ無抵抗、この力の入った件、何かを云おうとしているニュアンスが心に残る。如月はついに折れてふたりを帰す。
山根は本当は月田が好きだと告白するのは突然過ぎたが、それ知って月田が若原に、エノケンが好きなんだろと結婚する気はないかと切り出すのがいい。収束は梅雨開けて賑やかな街頭で、通りかかった是好がエノケンに世話になったと挨拶している。劇伴に唱歌「浜辺の歌」が使われる。グレーチングの蓋や便所のベンチレーター、泥濘になった未舗装道路など風景の切り取りも印象深い。
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