僕は、大いなる力には大いなる責任が伴うことに押しつぶされそうになりながらも、ひたむきに成長する等身大のヒーローが好きだった。 そんな未成熟の青年に恋する、MJの揺れる思いも好きだった。二つの心を軸に、B級街道まっしぐらのサム・ライミも好きだった。 そしていよいよ大団円のパート3だ。二人はどんなにか成長しただろう。今度はどんな障害が待ち受けているんだ？

タイガー免罪符を片手にお調子扱いて、自分の一番大切な人が見えなくなっている半端な野郎がそこに居た。おおっ〜、わかりやすくてイイ展開じゃないか。そして未精算の過去が追い打ちを掛ける。これまた、よくあることだ。しかもネタが親友と肉親と来れば言うことなしだ。調子扱いて地に足がついていない時ってのは、悪いときに悪いことが重なるもんなんだよねぇ。まるで僕の人生だ。 さぁ、行け！行って乗り越えてこい！男は度胸だ。

ところが、話が進むにつれて、僕の期待は徐々に醒めていった。

ぬわにぃ〜！、切っ掛けは外来種かいっ？！。しかもなんじゃい、あの真っ黒くろ助みたいなスライムは？。内なる悪の象徴とでも言いたいのか？。そこまで判りやすくしないと、自らの内に潜む善と悪との心の葛藤を描けんのかい？。等身大ヒーローは、黒マスクでシュコシュコ言っているフォースの暗黒面野郎じゃないんだぜ。サンドマンやハリーだって、背負ってるもんはあるんだぜ。MJだって同じさ。人それぞれに背負ってるものはあるんだ。それなのに、等身大だったヒーローの背負ってるものは、見てわかる外来種かいっ？！。 しかも、4者4様あるはずの背負っているものの描写が、ぜ〜んぶ中途半端。その割りに、CGだけはふんだんに盛り込んで、アクション映像は申し分ない。だから、話の中身の薄さとのアンバランスさが余計に鼻につく。 僕は、アクションアニメ映画を見に来たわけじゃないんですけど。

いくら金を掛けた大作であっても、根っこがB級な映画には、B級にしかできないことがある。それなのに、何を勘違いしたかサム・ライミ。

そうだ、全ては、タブロイド編集長とソバカス秘書が物語っている。編集長の出番が減っただけじゃなく、妙に分別臭くなっちゃって、オマケに秘書のソバカスも無くなり、唯の美人になってるのと同じく、等身大だったはずのヒーローは綺麗になりすぎた。花嫁に逃げられた息子を前に、キャビアのことを心配するあの編集長が、先任者にも正社員のチャンスを与えようなんて真っ当なことを言うなんて、ビックリ仰天だぜ。で、結局落ち着いた先が、「復讐するんじゃなくて許し合いましょう。大切な人を失う前にね」って、イラク戦争の反動ですか？

僕は、少しぐらいソバカスのある女の方が、愛嬌があって好きだ。女は愛嬌ですよ。エンターテイメントに徹っしれるB級だって同じさ。こまっしゃくれた映像美や芸術性・ストーリー性から解放されて、思いっきり深掘りして、思いっきり楽しくして、それで観客から「金返せ」って言われても、開き直れるのがB級なんだ。正しく愛嬌ですよ。 ハリーの顔面をえぐる暇があったら、もっと、話自体をえぐり込んで欲しいぜ。

大体、そもそもの根っこがB級だから面白いのに、投資対象として儲かるから、金掛けて無理矢理大作に祭り上げ、ゲイン確保のためには、観客から「金返せ」って言われるリスクは冒せなくなり、その結果、観客迎合で大仰にてんこ盛りにしすぎ、中身自体が面白くなくなるって、自分で自分の首を絞めてる気がする。最近、そういうのが多いのにも、少しウンザリしたりもする。

この映画を見終わってから、カンヌで北野たけしが「ここんとこ病気みたいに、感動します、泣けますって、そういうバカみたいな映画ばっかり。そういう時代になっちゃった」と、言ってたのを思い出した。僕は、たけし映画なんか理屈ぽくってつまらんと思うのだが、この一言は、言い得て妙だなと思った。

等身大だったヒーローは、ヒーローだけじゃなく映画そのものが綺麗になりすぎた。綺麗になっていないのはMJだけだった。 綺麗になりすぎた作品とヒーローとに相まって、 キルスティン・ダンストが良い味出してたな。僕は好きだ。