[コメント] ファウンテン 永遠につづく愛(2006/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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琥珀色一色のようなこの映画の中で、白には特権的な役割が与えられている。イジーが「雪が降っているわ」とトミーを誘った時の、白い服装や、雪の白。騎士トマスが生命の樹から流させた白い樹液と、樹液に触れた地面から生える、白い花。そしてトミーが生命の樹を登って宙に浮かんだ時の、白く眩い光。
エンドロールは、雪が溶けて画面に黒が広がる導入から始まり、少しずつ星が増えていく過程を映しだす。これは、劇中でトマス=トミーが懸命に求めていた永遠の命というものが、生命が生成と消滅を繰り返す、永遠の「時間」としてしか存在し得ない事を告げているように思える。だからこそ、イジーを救う為に永遠の命を追究する事に囚われるあまり、却ってイジーとの距離を深めてしまっていたトミーが、最後にはイジーの呼びかけに従って雪を見に行く事を選ぶという選択が、クローズアップされる。
ユダヤ系の家庭に生まれたという監督の出自に関係するのかどうか分からないが、カバラ的な神秘思想がそこかしこに感じられる作風。そこに異教性や仏教的なビジョンが介入した、という印象を受ける。菩提樹の下で悟りを開いたというブッダの伝説を、ヘブライ的な生命の樹のイメージと重ねたのかも知れない。ユダヤ的無と仏教的無の合致?
だが、そうした生命観や時間観念は、取り立てて新鮮さを感じさせるようなものではないし、脚本も演出も、監督の宗教的・哲学的なビジョンを提示する為に、撮りたいものだけを撮って済ませている観がある。要するに、映画としてよく頑張りましたと言える要素は乏しく(イジーのうなじと生命の樹の表面がアナロジーな所などは官能的で好きだけど)、またそこに描かれているビジョンにも、発見性が薄い。こういうものを観せられると、やはりタルコフスキーやキューブリックは別格だったと感じさせられる。
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