[コメント] パンズ・ラビリンス(2006/メキシコ=スペイン)
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フランコ政権誕生時のスペインを舞台としたダーク・ファンタジー作品。こういう暗〜い感じのファンタジーはツボ。予告を観た途端、これは絶対劇場で観るべき作品と確信し、ちょっと遠出して拝見。
結果は予想通り。思い切り好みの作品で、存分にデル・トロ監督の作り出した幻想世界を堪能させて頂いた。現実にちゃんと立脚してファンタジーを作ると言う作りは実に素晴らしい。演出の点で言えば、音楽も最高で、寂しげな旋律が耳に残る。
本作は一応ファンタジーと銘打ってあり、実際妖精も出てくるし、パンとかペイルマンとかのモンスターも登場してくるが、見た目だけの作品ではない事も事実。
本作の主人公オフェリアは確かに様々な超自然的なものを見ているのだが、それは彼女だけが見える世界である。という点が大きな問題。これはひょっとしたらオフィリアの生み出した空想…あるいは妄想なのかもしれない。という含みが持たせられている。
事実人間の脳というのは上手くできたもので、あまりに辛い現実に直面した時、想像の中で逃げ込む先を作ってしまう事がある。これを映画にしたものも結構あり、近年でもギリアム監督の『ローズ・イン・タイドランド』(2005)なんて作品もあるし、原作ではあるが『ハンニバル』(2001)のレクター博士もそう言う世界を脳内に作り出していたと言う事が書かれている(まあ、こういう想像力は私自身にも多分にある訳だが)。
オフィリアにとって現実はそれほどまでに逃げたい存在だったのかも知れない。だからこそ彼女は空想の物語を作り出した。こういう見方も確かに可能。
ただ一方、この作品ではもう一つ考えさせられもする。
人が生きていて、最後に「幸せだった」と思える瞬間があり、その瞬間にもし死ぬ事が出来るなら、それはとても幸せな事なのではないだろうか。と言う事。
オフェリアがやっていた事は本当に想像の中だったのかもしれない。だけど彼女は彼女なりに非常に困難な任務を遂行し、自分の身を犠牲にして赤ん坊を守り、そして魔法王国の王女モアナとして魔法王国に帰還している。たとえこれが彼女の脳内の出来事だったとしても、彼女は辛い現実の中で本当に大切なものを手に入れ、満足して逝ったのだ。事実彼女の遂行した試練というのは本当に脳内で考えたにしては厳しすぎる。単なる想像の産物であればもっと簡単なものでも良かったはずなのだから。しかも彼女は試練に失敗したとさえ思いこみもする。その中、死の間際に自分のしてきた事が間違ってなかった。と言う事を知らされ、最高の幸せを得ている。
同じスペインで製作された『汚れなき悪戯』(1955)のマルセリーノが死んでしまったのは悲劇と取られる向きもあるが、これと同じように考える事も出来るだろう(デル・トロ監督はメキシコ人だが)。カトリック国であるスペインの特徴なんだろうか?
小さい頃に死んだ子供も本当に不幸なんだろうか?そんな事を改めて考えさせられる作品でもあった。そう考えるとかなり深い作品だよ。
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