[コメント] 家庭日記(1938/日)
続いて山の道を泣きながら歩く桑野通子を繋ぐ(渓流は道の下にあるのだろう)。本作も清水宏らしい道と歩く人の映画だ。タイトルのイメージに引きずられて、あるいは事実、家屋内の会話シーンも多いので、室内劇だと感じられる観客も多いかも知れないが、私は何度も現れる道の場面に目を留めてしまう。では、道のシーンを時系列に列挙してみよう。
・開巻は後景に草原のある林の道。2人が歩く横移動ショット。学生服の佐分利信と着物姿の三宅邦子。別れ話になる。過去は火葬だ、という科白。
・時間を数年ジャンプさせて、住宅街の道を移動する空ショット。このシーンで高杉早苗が佐分利の妻として登場する。佐分利は医者(研究医)になっている。
・佐分利の友人−上原謙と妻−桑野の借家住まいを訪ねた佐分利と高杉が帰宅する夜の道。佐分利は、バーの女給だった桑野のことを悪く云う。
・銀座のレストランで佐分利が友人の薬剤師−大山健二と食事中、偶然一緒になった桑野と佐分利が帰宅する夜の道。
・上原と子供と女中が歩く道。右へカメラが移動すると桑野が隠れている。
・これも夜、家の近くの道を歩く上原と高杉の会話シーン。佐分利と三宅の関係について話す。2人を立ち止まらせ、ロングショットまでトラックバックする。
・終盤の自動車が病院へ向かう道。佐分利と上原と高杉の3人が乗っている。
・ラストシーンも田舎の道だ。2人の人物が歩くのを前から後退移動と後ろから前進移動で見せる清水らしい道を歩く人のショット。
次に、これも清水らしいドリーやトラックバックあるいは横移動のショットで重要なものを列挙する(これは無数に出て来るので全部はあげきれない)。
・序盤の下宿の場面。窓越しに部屋を映した画面に佐分利が入ってくる。画面外から男女の声が聞こえ、右へ移動し隣室。上原と桑野が大連に行く話をする。
・借家の和室で一人クラシック音楽を聞く上原から3部屋分ぐらいトラックバックするショット。調べると、音楽はサン・サーンスの交響曲第3番「オルガン付」第1楽章とのこと。
・美容院の店内をずっとトラックバックで見せるショット。美容師として三浦光子と姉の三宅が現れる。
・朝の三宅と三浦。美容院のドアの前に佐分利がいる。こゝでも、トラックバックで店内の三宅と佐分利の会話を見せる。銀座への移転を世話すると云う。
・上原が、子供−ショウちゃんと高杉の写真を撮るシーンの前進移動ショット。同じシーンで、屋内を移動して、勝手口から桑野が来たのを見せる。
・辻醫院、上原の父−藤野秀夫の病院での、導入部も横移動ショット。この場面で結果的に、上原と子供が桑野から引き離されてしまう。
・クライマックスと云っていいだろう、藤野と桑野の対決シーンでは、2人へのドリー寄りのショットで執拗に切り返す。
移動撮影はまだまだあるが、割愛する。藤野と桑野のシーンで、ドリー寄りショットを刻んで切り返すのは、私は情緒過剰な演出と思う。尚、主演級スター女優4人、桑野、高杉、三宅、三浦がそろって顔を合わすシーンは華やかで麗しい。高杉の健気なお嬢さんぶりがとても可愛いが、映画としてプロットを支え続けるのは、矢張り桑野であり、圧倒されるのは桑野だ。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・佐分利と高杉の家の女中さんは高松栄子。
・ラスト近くに出て来る医者は水島亮太郎。警官は坂本武。ワンシーンのみ。
・高杉と桑野が初対面の挨拶をする際に科白をかぶせて佐分利と上原が会話する。複数人物の科白の重複は『ヒズ・ガール・フライデー』より早い。
・中盤に桑野と高杉が見る映画は、調べるとドイツ映画『ワルツの季節』らしい。ラストカット(エンドマーク直前)に出て来るのはクルト・ユルゲンスか?
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