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[コメント] 不道徳教育講座(1959/日)

クレジット後のプロローグ。女の脚。カメラは股をすり抜け、カウンターの男の背中。男が振り向くと、三島由紀夫だ。三島はノンクレジットのゲスト出演だ。「道徳は檻、不道徳は、これ」と云って、鍵を見せる。
ゑぎ

 こゝから本筋に繋ぐが、刑務所の檻が開けられ、出所するのが大坂志郎だ。殺人以外の全ての犯罪を行った男、というナレーションがある、本作の主人公で、純然たる二枚目(男前)役なのだ。私には往年の、ちょっと頼りない善人役のイメージが強すぎて、どうにもしっくりこなかったのだが。刑務所の前で、彼に騙された女たちに取り囲まれたりする。それは結婚詐欺で騙されたことを恨んでいるのではなく、彼に会いたくて集まった、ということらしい。

 さて、あらすじは端折るが、大坂は主人公の前科者と、道徳教育の専門家の官僚(本作中の役職名は、文政次官)の二役を演じており、上手く文政次官に成りすまし、山城市(という架空の都市)へ到着する。この町のロケーションがなかなか魅力的なのだ。周りを山に囲まれており、町の中を流れる川と、川の側の芸者屋や喫茶店などが度々舞台となる。中央から来た官僚に対し、へつらい媚びる山城市のお偉方連。彼らが右往左往するのも面白い。

 大坂が滞在するのは高校の校長宅で、信欣三が校長。妻に三崎千恵子長門裕之が長男で市役所官吏(戸籍係)。娘は高校生の清水まゆみ(クレジットでは新人と出る)。次男は中学生か。この次男は、かなりのサイコ野郎で、完全犯罪の殺人を計画しているという荒唐無稽さ。この家族には皆それぞれ問題(?)があり、三崎は若い運転手との不倫を妄想しているし、清水は「処女くじ」(当たりが出ると、清水の処女を奪う権利を獲得できる)を沢山の男に売りつけ、長門は過去に女を泣かせまくったというホラばかり吹き、父親の信欣三はご多分に漏れず、汚職で私腹を肥やしている、といった状況だ。犯罪者である大坂は、これらの問題を上手くいなして、大らかに対処するのだ。

 シーンで特筆すべきは長門の妄想の具現化場面だ。これが西部劇のサルーン風のセットの中、市のお偉方が飲んでおり、中華料理屋の店員?筑波久子が、セクシーダンスを踊り始める。まるで、『雨の唄えば』のブロードウェイ・メロディのシド・チャリシーみたい。そこに、市役所の同僚のはずの稲垣美穂子が現れ、バレエ風のダンスを披露する。このシーン、狭い空間だが、とても上手く見せるのだ。

 あと、大坂が、映画スター役の月丘夢路のコテージ(山小屋)で、今で云うところの月丘のストーカー、岡田真澄をぶん殴るシーンがあり、月丘に惚れられるという展開になる。これには吃驚してしまったが、中盤は、いつもの雰囲気だったので、忘れてしまっていたが、本作の大坂は、腕っぷしも強く、女にモテる、という役なのだ。

 実はまだまだ登場人物やプロットは多彩あるいは複雑で、西川克己は見事にさばいているし、とても面白いとは思うのだが、詰め込みすぎの感も否めない。尚、エピローグでも、三島が登場し、「誰しも長生きはしたいですからな」という言葉を残すのは、これには感慨深いものがあった。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・冒頭の大坂の出所シーンから登場する、大坂を突け狙う殺し屋は、佐野浅夫植村謙二郎。植村、サングラスが似合う。

・山城市のお偉方。市長は松下達夫、警察署長の天草四郎、消防署長は高品格。他に取り巻きの議員で、松本染升。お偉方の宴会シーンで登場する芸者たちの中に田中筆子

・清水まゆみに気のある組合員に柳沢真一。清水の同級生には葵真木子がいる。柳沢とともに活動している組合員の中では、黒田剛榎木兵衛が目立つ。

・校長に賄賂を渡していた教科書販売会社の元社員に藤村有弘。川の側の喫茶店「ルパン」のママは初井言栄。大坂が、高校に参観で訪れた際に、授業をしている先生は浜村純

(評価:★3)

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