[コメント] マイティ・ハート 愛と絆(2007/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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感情を断ち切るような、素早いカット割り。出来事、状況の提示に必要な時間だけ止まるショットを、一定したリズムで配列した編集。こうした演出法は、観客が登場人物に感情移入する隙間を排除しているようにも思える。
何と言っても、劇中で描かれる出来事は現実に起こったのであり、切れば血が流れる生身の人間に降りかかった災厄なのだ。それを劇映画の中のキャラクターとして過剰に肉付けし、劇的な「盛り上がり」を企図する事は避けられるべきだ。この映画に娯楽性や、映画としての劇的展開などを求める事は、夫の死を知らされたマリアンヌに、ダニエルが惨殺される様を映したビデオを見たか、と訊ねたインタビュアーと同様の物見高さを露わにする事になってしまう。
だが、そうした抑制を利かせた上で、作劇的な配慮は用いられている。不安に苛まれるマリアンヌの様子と並行して、ダニエルとの回想シーンが挿入される編集には、彼女が絶望の淵に沈みそうになる事と、心の中でダニエルの傍に在ろうとする事とが、表裏一体の出来事として示されている。ダニエルの死が知らされた後の回想シーンで、二人の結婚式の様子が描かれる。ユダヤ人であるダニエル、アッラーの名を唱えて誘拐や処刑を行なうテロリスト達、といった宗教対立が描かれた果てのこの場面での、「仏教には神は居ません」という言葉は、一抹の光明のように感じられる。ダニエルがグラスを踏んで割った後の「歓びの儚さと、純潔の破壊を表しています」という説明は、ダニエルと居る幸福が儚く消えた事と、彼との子を授かっている事の救済とを、同時に痛感させる台詞だ。
ずっと冷静さを保とうとしていたマリアンヌが、夫の死を知らされた時に部屋で独り上げる叫び声。だが、彼女が出産シーンで上げる叫び声は、ダニエルとの愛情が、形有るものとして結実した事の証明でもある。
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