[コメント] はじらい(2006/仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
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映画を映画たらしめるメイキングセンスが決定的に不足している残念なセクシュアリティムービーである。監督の仕事の立場がどのような位置にあってこの映画が創られているのかは分からないが、エロティックで扇情的なものだけではない作品コンセプトであったならば、もっと映画度を高める“質感”を意識すべきである。決してポルノグラフィを貶めるつもりはないのだが、監督当人もおそらくは望んでいないであろう作品の置き所、まさにこの程度の質感の乏しさでは、“品格”というものを体現し得ない実用的なポルノグラフィといった範疇である。とはいえポルノ的な即物描写にもどこか突き抜けたところのない凡庸さで、惜しむらくは監督自身もエロティックなるものに堕しきれていないところに物足りなさは倍増する。ただし、唯一の救いは「芸術家」×「モデル」、「男」×「女」というアイデンティティをめぐる一連の事件を通して、最後に主人公が罪の意識を自問するような描写を見せつつある悔悟のようなものを画面に滲ませるといったラストである。その点では映画全編にわたって蔓延る諸悪にあっても少なからずテーマの提示に達しえたという帰結にはこの作品を擁護できる価値はある。それにしても役者陣のあまりに映画的ではない相貌は本作を一層魅力のないものとしている。しかし、役者陣に目をつぶっても、この作品をリュプチャンスキーが撮るだけで映画度は一気に上昇したであろう。そう思わせる意味ではよい出会いであったし、映画は“ディレクション”のものであることを改めて痛感させられる作品であった。
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