[コメント] 春琴物語(1954/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
冒頭、丁稚に来た佐助が春琴を初めて見る件、この子役の眼差しとてもいい。一目惚れをずっと続けたのだと観客はすでに説得されてしまう。圧倒的なシーンがいくつもある。序盤の盲目の京マチ子が夜半に庭で舞い、舞い散る雪を心で見ているような二重写しのショットがまずとても美しい。
京が花柳喜章の琴を指導する件は、技術だけで通じ合う関係を描いて本作もいい。たっぷり時間をかけるのがいい。撥ぶつけて手の甲から流血、『セッション』みたいなものだ。この件が強烈であるため、ふたりの関係はSMではなく芸道に昇華されたものだと伝わってくる。「ちんちんちりれん」なんて対話は『流れる』の杉村春子の電話が想起される。「狐忠信」を観て心の通い合う様を知ったと云う京の回想もある。後の赤ん坊が死ぬ件はこれと重ねられたのだろう。ラストは赤ん坊の墓参りが充てられた。
薬問屋の工場の美術が興味深い。歯車が二階まで連なり、階上から薬草を入れる仕組みになっていた。花柳はふたりの仲を揶揄った同僚を歯車に突き落とすチャップリン風の件がある。中盤にこの実家の薬屋は西洋に負けたとあった。花柳が目を突く件は血が流れないという引き算の演出がされている。視野が霞んでいくなか、密やかな伊福部のピアノも素晴らしかった。
杉村春子と船越英二は京に熱湯かけるための悪役で、これでもやや出過ぎかも知れない。京の父の進藤英太郎が珍しく善人というのもいい。丁稚で預かったのに商人にできなかったと花柳の両親を訪ねて詫びを云っている。ゴールデンハーベスト賞受賞とOPにトラのトロフィーが映る。モノスタ。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。