[コメント] 海軍(1963/日)
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ヴェルサイユ体制で日本は五大大国のひとつとして君臨したというヘンテコな自画自賛の字幕、その日に米屋の倅に産まれた北大路欣也。彼が産まれてから死ぬまでを描く。学校では軍事教練、江田島の海軍兵学校を見学し、「ここでは一個の人間としての教養にもっとも力を入れております。ここを出て行く人は将来の日本の運命を決める人となるからであります」と教官江原真二郎に説明されて北大路も志願を決める。学校では軍隊志望者が多いのを喜ばしいと語り軍人組と名付けているが別に拘りはない。前半はさらさらと流している。北大路は合格。訓練風景が活写される。帰省すればやたら親孝行。練習艦でハワイ行って乗組員たちが甲板からダイアモンドヘッドだ、と喜んでいるのがひどく印象的。五大大国としての国際関係は学んでいないのか。それとも海軍は親米だった主張なのだろうか。
悩める立身主義者千葉真一はいかにも戦前の小説。「海軍キチガイ」と妹三田佳子に評される海軍志願。同級生の北大路を誘うのだが本人は乱視で失格、海軍経理学校受けて失敗。父の加藤嘉の縁故で田園調布に降り立ち絵描きの東野英治郎に弟子入りして軍艦の絵が描きたいんです、こんな時代にリンゴなんか描いていられるかと訴えるが、東京で北大路に再会すると裸婦描いている。
千葉のアパートで妻になる北原みのりと三人、北大路は千葉にどうして戦争で死ぬのは誰のためだと問われて自分のためだと答える。お国のためとは答えないのが、陸軍とは違うぜ、序盤に江田島の江原の教官の語った一個の人間、個人主義に通ずるのだろう。キャメラは千葉を捉え、照明は彼にスポットを当てるというやり過ぎ演出のなか、作家の引用としながら俺たちは運命という船に乗っているとか語り、北大路は批判する立場にないと答える。要は後ろ向きに戦争の決意が通念で語られている。ここにいい科白があればいい作品だっただろう。本作はそうならなかった。原作はさすがにも少しコクがあるのではないだろうか。
林光(新藤関連で参加か)の劇伴はつけ過ぎで躁鬱病気味。ツンデレ三田佳子のラブアタック・コメディには冗談音楽を施していて、全体から彼女のパートだけ調子が外れているのはヘンに面白いが。いい娘になってちょうど真ん中時点でふと我に返って憂い帯びて「貴方も戦争にいらっしゃるの」「そりゃ行くでしょう」で結婚申込。狙い過ぎだが三田の変身がいい。
北大路らは潜水艦で真珠湾攻撃の命令。押しかけ女房は呉の下宿で待機。臨時休暇で再会して三田は布団敷いて「私の全部を取って」。北大路は美しいままの貴女の美しさを抱いて死にたいとか云ってキスだけするのだった。
大本営発表が全ての家庭に届く。提灯行列、二重橋への万歳まで撮られる。北大路戦死。みんな喜んでいるなか、北大路の母の杉村春子と三田桂子だけは暗い顔している。葬送行進曲が演奏され大砲に遺骨が乗せられ町中練り歩く大々的な合同葬儀、杉村は一緒に歩き、千葉と三田は大勢と一緒に地べたに正座して手を合わせている。自宅の葬式で杉村は井戸抱えて泣き、三田は思い出の浜で私は悲しまないと云いながら泣いているラスト。
鹿児島の町の風景とか桜島バックの天保山町の浜、そこでの出征行進など画がよく撮れている。西郷の銅像も出て来る。再現美術も立派に見える。今度は千葉が呉に北大路の下宿を訪ねる。ここで主人の風見章子が千葉に風呂勧める。客人に風呂勧めているのが面白い。本作でも北大路はゴネて千葉ちゃんの主役を奪取した由。原作は岩田豊雄の戦中のベストセラー。戦後は獅子文六になって多くの戦中派を失望させたらしい。東映の名作路線の一作で43年の田坂作品のリバイバル。
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