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[コメント] ラスト、コーション(2007/米=中国=台湾=香港)

芳醇な洋酒のような溢れ出る気品と目線の慎ましさがスゴイ!胸を締め付けられるようなシーンの連続。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







正直申しましてアン・リー監督のことは、これまであまり高く評価してきませんでした。『グリーン・ディステニー』のように、中国舞踊を映像で飛躍させる、いわゆるSFX型中国監督なのかなぁと思っておりました。

その後ハリウッドで『ハルク』を撮りますが、まぁこれも良く飛ぶお話で、超人がアメリカ大陸をピョーンと飛んでゆくイメージのみが残りました。(あまり面白い映画ではありませんでした。)

そして、アカデミー賞にもノミネートされた『ブロークバック・マウンテン』に至るのですが、ここでアン・リー監督は矛先を変えましたね。男同士の愛情というテーマ。『淀川長治』さんがご存命だったら、さぞかしお喜びになられたであろう、不思議な人間関係。でも、ニール・ジョーダンの『クライング・ゲーム』的な世界からすると、かなり乱暴でアメリカンなイメージが濃くて、私としてはあまり評価しきれなかった。

うちの家内などは結構この『ブロークバック・マウンテン』を高く評価していましたが、そう、ある意味女性が見る男性愛、という意味で優れた映画だったのかもしれませんね。男として奥ゆかしさを感じなかった。シンクロしなかった。

ところが、ところがですよ、この映画は何なんでしょう??????

ラスト、コーション

これほど素晴らしい映画と認識していませんでしたので、正直申しまして驚かされました。素晴らしい映画です。

もう、冒頭のシーンからゾクゾクします。麻雀をする女性達。戦時中ですね。そしてその表情。目線。この目線の慎ましさをじっとみつめるだけでもお金を払う価値がある映画ですね。タン・ウェイという女優は、この映画で体当たりの演技をしていますが、この映画のためだけに生まれてきたような沈うつな表情と、一瞬見せる目線の奥義が素晴らしい。すごい女優を見つけてきたものですね。

トニー・レオンも素晴らしい演技をしています。でも正直申しまして、こういう男っぽい役を演じるタイプではありませんので、彼なりの高度な演技は見ごたえがありました。最後、部屋のベットのシーツの上で朦朧としていますね。彼が去った後のベットのシーツの微妙な皺とかが、彼が彼女に下した判断の迷いを示しています。

色々美しいシーンはありましたが、最後にダイヤモンドを手にして涙するタン・ウェイさんの演技、こも瞬間、この瞬間です、この瞬間、彼(トニー・レオン)に対して自分がスパイであり、周囲を造反者が取り囲んでいることを示す、小さな小さなシーンがありますね。平板な印象だと「ダイヤモンドでつられたか、この女」と言われそうですが、それは彼女自身の運命をも委ねる行為ですし、実際彼女は殺されてしまいます。”ダイヤモンドにつられた、というよりも、自分の運命を自らここで終わらせようとする、非常に大切なシーンなわけです。

こういう品の高い映画はいいですね。美しい。

そしてセットもリアルだし、とても感動的ですね。

見終えてホッとする映画ですが、後からジワジワひとつひとつのシーンが浮き彫りになるような深さのある映画でした。

アン・リーさんの質がこのレベルでキープされるのであれば、過去の作品も再び蘇るでしょうね。

2009/03/17

(評価:★5)

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