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[コメント] 巌窟の野獣(1939/英)

役者の良さ、複雑な人間関係の面白さ、綺麗な映像。思わぬ拾い物だった。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







このヒッチコックはいつもとかなり違う。

まず、役者の魅力がある映画だ。

(役者に関する前置き)

私は比較的年代の古い作品を多く観ているが、それらに出演するアクター、アクトレスに強く惹かれることはそれほどない。逆に現代の映画のなかでは頻繁にスター(特に女優)に心を奪われる。その比率は新しい年代の作品ほど高くなっているように思う。平安時代の女性は現代人からみると不美人に当たるような人が結構モテたらしい、という話を聞いたことがある。この例も含め、役者に感じる魅力の差異は、時代のなかで身につけられる「モード」が大いに関係しているのだろう。

*昔の俳優女優に魅力がないといっているのではない。ゲーリー・クーパーなんかは大のお気に入りだし、過去には過去特有の良さがあるのだ。

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さてさて、長い前置きにもかかわらず、1930年代の作品の中ではかなり珍しく、出演者の良さが際立っていた。モーリン・オハラとチャールズ・ロートンである。

惚れた。モーリン・オハラのなんと美しいことよ!ああ美しい美しい。ここでの彼女は女性の美しさ、強さ、弱さをすべて表現している。終盤、縛られ口が聞けない状態で涙を流しているシーンがあったのだが、ここでやられました。心を鷲掴みにされた。

で、チャールズ・ロートン。彼が面白い。重要なのはキャラがしっかりと確立されて、他の登場人物とは全く異なった独自の存在感を築き上げていることだ。すなわち、飄々とした狡猾な性格である。これが気に入った。作中で最も悪い人間なのに、不思議と好感が持てる。ラストの自殺の場面なんか(こんなこといっていいのか分らないが)格好良さすら感じてしまった。否、はっきり言ってかっこいい。それに劇的なエンディングでもあるため記憶に残る作品にもなっている。

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この作品はいつものヒッチコック作品よりもずっと面白かった。既記の役者の魅力以前に、脚本の時点で既に完成度が高い。伏線が幾重にも重なった人間関係は計算され尽くされているようである。トレハーンの身分(潜入捜査官)が明らかになったとき、俄然ストーリーに引き付けられた。それに伴い、視覚的トリックも分りやすく多用されている。ヒッチコックの作品は、よく知られているものほど映像面が賞賛されているが、それらよりも本作の綺麗な映像の方がずっと好きだ。

(評価:★4)

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