コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 忠次旅日記(1927/日)

本作も日本映画の至宝と思う(ただし、現存版を客観的に見ると、高い評価は憚れる)。国立映画アーカイブのデジタル修復版を見たのだが、これは、シリーズ三部作の内、二作目「信州血笑篇」の10分強と、三作目「御用篇」ほゞ全編を組み合わせたものだ。
ゑぎ

 冒頭は、赤城山のクダリの後、子供(勘太郎)を連れた忠次−大河内伝次郎が、壁安左衛門の家にやっかいになっていて、今後も子供をあずかってもらうよう頼んでいる場面。二人の座位での切り返しがばっちり決まっている。この時点で既に、忠次は身をかがめているようにも見える。そこに、忠次を騙る子分が押し入って金を脅し取ろうとし、忠次は激しく怒ると共に、夜盗の頭目になってしまったと落胆する。時間の経過をディゾルブ繋ぎで表現することで、悲嘆が強化して定着する。「信州血笑篇」はこの部分だけ。

 「御用篇」では、忠次は越後長岡の酒造・沢田屋の番頭になっている。この導入部でも、杜氏作業をゆったりとしたディゾルブ繋ぎで見せる。大きな木の樽がたくさん干してある風景がスペクタクルだ。子供たちが輪になって回る、いわゆる「かごめかごめ」(字幕では「子取ろ」)の遊びが何度も挿入される。大きな丸い樽、子供たちの「輪」といった円形が目に焼き付く画面だ。「御用篇」の前半は、この沢田屋のお嬢さん−沢蘭子がヒロインで、登場から忠次のことを想っている。彼女から告白され同時になじられもするシーンでは、自分がヤクザでなければ、と忠次は葛藤しているかのように見える。この後の場面で、忠次の回りを子供たちが輪になって回るのだが、これが予想以上の高速の回転で現実離れしたシーンだが、よく忠次の心持ちを表象する。

 その一方、沢田屋の放蕩息子が花魁に騙され、金を巻き上げられたことに対する忠次の場面も見せ場になっていて、花魁と結託したヤクザのところへ行き、金を取り戻す。こゝで、背中側の襖から槍で狙われるが、身をかがめてかわす、というギャグのような演出が反復される。この件で、忠次とバレたので、追手が来ることを予想し旅に出ようとするが、しかし、既に捕手に囲まれており、たっぷり時間をかけて、殺陣シーンとなるのだが、この殺陣までの焦らす演出、忠次の見得を切る部分が、実にいいと思う。

 後半は、上州へ戻った忠次が、勘太郎と他の子供らとが遊ぶ(国定忠次ごっこをする)のを物陰から見る、といったシーンを挿んで、零落の描写が続く。持病の中風が酷くなり、国定村の愛妾−伏見直江のところへ、子分たちに戸板のような担架に乗せられ運ばれるのだ。終盤、忠次には殺陣シーンもなく、辛そうに寝ているだけ、という悲痛なものであることも、逆に本作の凄みだと思う。ラストは、子分の裏切りで、捕手たちに囲まれるが、伏見は、ピストルを取り出し活躍する。この人にはこういったイメージが良く似合う。伏見とピストルと云えば衣笠貞之助の『雪之丞変化』(1935)を思い出す。また、子分の中では、勝新みたいな鉄−中村紅果が良く目立つ。捕手たちから忠次を守る、というシーンでは、伏見とともに体を張って見せる。この場面での、隠れ家の扉が上下に開閉するという構造も良い見せ場を作っている。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。