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[コメント] 崖の上のポニョ(2008/日)

夢と希望だけを詰めた物語を創造できる宮崎駿の力量は凄い。勿論世界は夢と希望だけで終わらせられないのだけれど、子供たちが気付くのはまだ先でいい。
もりっしー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 この物語の基調となった人魚姫然り、フランケンシュタイン然りキング・コング然り、異性物間の恋物語の殆どには障害が発生する。(物語の舞台が、今私たちが存在する地球とはかけ離れている環境の場合は別。) それは同じ人間の間でも人種間、性別間、はたまた階級間でも争いが起こっているんだから当たり前だ。人が自分と共通のものを持っている他人に安心感を感じる限り、差別というものは無くならないし、そこから生まれる偏見も無くならない。

 勿論この「ポニョ」も違わない。人間と魚、異種族の恋。この障害は大きい。実際、ポニョの父親はポニョに反対し海で生きるように諭す。 しかし、何気に重いテーマを潜めている癖にこの物語には夢と希望しか無い。元ネタの人魚姫のような悲劇なんか一塊も無い。登場人物は正に”いい人”しか居ないし、物語唯一のいつも頑固で無愛想な老人も、結局は付き合いが長い宗佑には優しい。  絶望を描く宮崎アニメだって最後は希望に回帰する。でもこの「ポニョ」には絶望が無い。つまり絶望が希望に変わる"過程"が描かれない。ストーリーは物語の背景を深く考える人間にとっては無に等しく、この点では「ポニョ」は「トトロ」よりか近年の「ハウル」に近い。ポニョの幸せの為の奮闘以外の過程は描かれないからこそ、批判があり賞賛がある。  骨太なストーリーを作らなかったのは、恐らく子供を退屈させない為だと思う。「ポニョ」は宗助がポニョに出会って波がザーーンとなってポニョが走って終わりだもの。以前子供向けの「スピードレーサー」を見たけど、映画を見る事に慣れていない子供は席を立ってた。面白かったが。  それなんで、物語の背景や過程について深く考える事が無い人、そう考える事を無くせる人は結構楽しめると思う。「ラピュタ」、「もののけ姫」とかそこら辺のしっかりとした設定の上で繰り広げられる活劇を期待する人は見る前にその期待をどうにかしないと、裏切られることになる(と思う。)

 大したストーリーラインが無いから叩かれるって言ったけど、その一番の原因は恐らく父親。「あの父親がなんで人間界を捨てたかわからない」って批判が多い。これに関しては「父親は人間に絶望し海と共生することを選び、その子供は人間に希望を抱き人間との共生を選んだ」、って言って終わりで良い気がするんだけどどーなんだろう。

 あとは父権の不在。父権を持つ大人が居ない。やっぱり「ポニョ」は厳しさとかそういうのには不縁な物語。 でも良いんじゃないかなぁ。あくまで子供の為の物語なんだよ、ポニョは。あの町の人たちはあの大変な津波がポニョのせいだってわかっても、「ポニョちゃん頑張ったわねぇ。偉いわねえ。」しか言わないんだよ。この物語には夢と希望しか無い。勿論世界は夢と希望だけじゃ終わらせられないんだけど、子供たちがそれに気付くのはまだ先で良い。  障害のある二人の恋の物語を、夢と希望だけで描き切った宮崎駿の力量はやはり凄い。 (但し、当の子供達にこの話が受けたかは別。私が見た映画館では退屈せず楽しんでいた気もしたけど受けてないのかなぁ。)

(評価:★5)

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