[コメント] 川のある下町の話(1955/日)
ファーストカットは橋の俯瞰。立派な橋。欄干に人だかりがあり、皆、川を見ている。次に川のショット(これも俯瞰)で、子供を抱いた根上淳が、左から右へ画面を横切る。溺れている子供を助けたのだ。続いて川岸。有馬稲子が土手を降りてくる仰角。
舞台となる町の名前は明らかにされない。調べるとロケ地は王子の音無川らしい。近くに、大学医学部附属病院があり、度々時計台が映る。根上はこの病院のインターンで、同僚に山本富士子がいる。根上が助けた子供は有馬の弟。山本は有馬のことを、目が綺麗と云う。この科白は、この後、川上康子と品川隆二からも聞かされることになる。
有馬は、あやめ横丁のパチンコ屋の店員で、チケットブースみたいな席に座っており、客にお金と交換でパチンコ玉を払い出す仕事をしている。呼び込みの男は、長谷部健で、後に有馬を手籠めにしようとするシーンがある。根上の寮の管理人・小川さんは町田博子。この人は、性格が良いのか悪いのかよく分からない、こういうキャラが上手い。学生向けの寮で、根上に金を借りに来る学生や、ボーイフレンドと喧嘩して相談に来る女子がいる。根上は皆から好かれる性格という描写だ。
有馬と弟は、高台の空き地の隅に建てられたバラックに住む。隣人の姉妹は菅井千鶴子と木匠マユリ。この空き地は、冒頭の川の側でもあり、鉄道も近い。昼間は見晴らしが良く、立て看板などもあり、いい画になる。夜は、汽車の走る音や汽笛がオフで聞こえ、登場人物の不安を掻き立てる効果も出る。また、川べりには多々良純らのルンペンがおり、有馬ら姉弟を見守っている。
この空き地に根上の伯父さん−見明凡太朗が病院を建てようと考えていることで、有馬たちは立ち退きを迫られる、というようなところからプロットが動き出す。一方、根上は、山本からも有馬からも、見明の娘−川上康子からも慕われる、というお話だ。根上のアパートの部屋には、山本、有馬、川上が訪ねて来る。モテモテの根上だが、それも納得できるルックスと良い性格に演出されていると感じる。登場人物たちの評価では、有馬が山本よりも美人、という設定のようだが、私はやっぱり山本の方が美しいと思う。川上は新人だし、高校生という役でもあり、まだまだ未成熟な、恋愛対象になりそうもないキャラになっている。
最終的に、根上が誰を選ぶのかは書かないでおくが、中盤で、有馬とキスするシーンがある、というのは書いておこう。しかし、このキスシーンは性急過ぎる演出だと思った。この後、川上と有馬の対決場面があり、有馬が自ら身を引き、失踪してしまうのも劇的に過ぎるだろう。有馬の再登場は、米兵相手のキャバレーのシーンで、クレーン移動ショットが唐突に挿入されるのだが、上昇移動して、建物の屋根上の明り取り窓からキャバレー内部を見せる。『市民ケーン』みたいなショットだ。キャバレーのバックルームのシーンではバラックの隣人だった菅井と木匠の姉妹も再登場するので、有馬はこの姉妹を頼って、キャバレーのホステス(というかダンサーと云う)をやっているのだと分かる。ちなみにこの場所は「柳瀬」という名前の町なのだが、木匠らに、青梅線であっという間、という科白があったことを考えると、横田基地の近くという設定だろう。品川隆二はこのキャバレーのマネージャーか。
さて、こゝからのプロットもかなり極端な悲劇的展開が待っているが、病院建設予定地(元の空き地)に、ボロボロの蝙蝠傘をさして有馬が現れるシーンは、ちょっと強烈な造型で明記すべきだと思う。子供たちが近寄って来て、好奇の目で見る。こゝから斜め構図のいびつな画面になるのが表現主義的な演出というか、かなりシュールなのだ。
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