[コメント] ダークナイト(2008/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
ハリウッドアクションヒーロー物と言えば、誰にでも分かる(視聴者層の多くが理解できる)単純な勧善懲悪の構図とストーリーの上に、CGと虚仮威しの小道具を連発させて終わってしまうのが通例だ。あ〜ぁ面白かった、さて次は何を見ようかてな感じだ。聞き捨て見捨てのJ−POP的大量生産大量消費のハリウッド映画産業の危機感が到達した、一つの成果がこの映画にはある。今までに紆余曲折はあった。
見る前から分かってしまう=つまりは見ずに済ませてしまえる善と悪との二元論の胡散臭さと、CGモリモリの非現実感に飽きてしまった層の観客達を呼び戻すためにはどうするか?
一方で、「善悪が曖昧で割り切れず悩み、限界を感じるダークサイドの崖っぷちヒーローを、ハリウッドの金と技術で撮ったら、実は凄い映画が撮れるんじゃないか?だって現実の戦争だって善と悪との戦いじゃないし・・・いや、CNNとABCの受け売りだけどさ・・・」などという、軽薄で我が儘な欲求を持ったTVの前の消費者が相手なわけだ。
そんな彼らへのカウンターは、実は背景もプロットも目新しさは必要ない。日本ではレインボーマンだよ。ま、彼は金も名声も無かったけど・・・日本人は、どこまで行っても貧乏性、貧乏が好きw。翻ってこの映画、《簡単には選択できない善と悪との二元論》、《本物》の2つのキーワードが見事に融合した。
今回、やたらと明るいところに登場するバットマン。明るいところで撮ってもスーツ自体に偽物臭さが無いから凄い。そんな本物ぽさは、映画の中でさえ象徴的に描かれる。冒頭で偽バットマンが銃を乱射するところへ、本物のバットマンが登場し、こちらは銃も使わないし一人も殺さない。ところが犬に咬まれてイタイタタ!。そして最期まで人(犬も)も殺さないバットマン。これが本物たる所以だ。ジョーカーから「俺を殺してみろよ」と、どんなに誘われてもそれに乗らない本物のヒーロー。万歳!ってアホかw。殺さないのはブルースの生い立ちからくる趣味なだけ。ま、好みの問題だ。モノホンの凄い奴は、そんなことさえ超越して、好むと好まざるとやらなきゃいかん時にはやります。やって十字架背負います。そんな奴は世の中にゴマンと居る。
毎回登場するお約束の新兵器も、今回はバットポッドだけに絞り込み、地味で控えめな小道具のラインナップと相まって、小道具てんこ盛りの小賢しいアクションに頼らずに、ランボルギーニ・ムルシエラゴ(スペイン語でコウモリの意)をぶっ壊すような、「本物感」と骨太なストーリーを貫徹する心意気は感じた。ちなみにこの車、3年リースで月額たったの70万円で乗れますw。
デントは、コインの表裏で決断し、レイチェルは、ブルースとデントの両者から求婚されてどっちを選ぶんだと迫られ、ゴードンは、犯罪を減らすためにバットマンをスケープゴートにするのかと問い詰められ、ルーシャスは、とんでもソナー盗聴装置がある限り会社を辞めると言い張り、良くまぁ同じ調子で二者択一を連発するなぁと思っていたら、フェリーに乗った囚人集団と市民集団が、ボタン早押しチキンレースに参加させられるに至っては、ご苦労さんと言いたいよ。いやマジで。
ああ、迫り来る二者択一の嵐!。君は決断ができるか?!ってな感じだ(余計なお世話だ)。しかし、そこに至るプロセスに苦悩や葛藤があるにせよ、白黒つけるだけで事が収まる事情だらけで、実は至極分かりやすい。シュールさはない。この「ナンチャッテ分けわからんさ加減」がウケるんだ。本当に分けわからんかったら(現実社会では、本当にわけ分からんことの方が多いが)、観客が置いてけぼりになる。ハナからそんなものは求めていないのだ。
主要な人物の全てが見かけ倒しの二者択一の狭間にあって唯一、アルフレッドだけが変わらずに静かにそして深くブルースを見つめささえる。この安心感がたまらない。基本を良く押さえた王道たる作りの、しっかりした良い映画だった。
しかし俺としては、ジョーカーを轢き殺して欲しかった。轢き殺して、その悲しみと怒りを持って十字架を背負う方が、トゥーフェースとの戦いだってよっぽど深みが出る。お互いに「自分目線の正義」を持ちながら、絶対に相容れないと信念と人殺しの汚名を持つ者同士のガチンコ勝負が生きてくる。そうなりゃ、ゴッサムシティー市民の罪を自ら引き受けるその姿は、ナイトどころか救世主のそれに近い。そして次作ではイエスの如く復活するのだ・・・なんて展開の方がワクワクする。そもそも騎士は人殺しなわけで、罪あるところへ斧を振り下ろせない人間は、騎士には成れない。
シュールさのかけらも無いナンチャッテ暗黒の騎士は、その場を適当に誤魔化して切り抜ける天才のジョーカー=正しくトランプの「その場しのぎの札」の相手として、ある種の茶番劇としては相応しい。
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