[コメント] 丼池(1963/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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本作が詰まらないのは一点、主役の司葉子の造形が定まらない処だろう。貸金屋を学生仲間と立ち上げて、序盤に「銀行で貸さない処に貸す」という志を述べているのだが、その割に恩師の織田政雄の理科教材投資には担保がないと出資を断る。そしてそれなのに、雁治郎の老舗には金券まで発行して金集めて融資する。このように行動に一貫性がない。冒頭に布団屋を残酷に占拠して起こした貸金なのだが、布団屋が田舎で再起したと報告受けて返す言葉もない体なのだった。最後に彼女は裁判所に出向き、映画はたぶん彼女は負けるだろう、そこから先が大事、と言外に語っている。それはそれでいいのだが、その負けっぷりは筋が通っていないように思われる。
これだけが残念だった。他はとても面白いドラマだから。三益愛子と新珠、そこに上田吉二郎が絡むコメディが箆棒に面白い。経理課長の吉二郎が資金繰りに困って「約手割引」を高利貸の三益に交渉。ここにアラタマがちょっと上らして貰いますと登場。この女は返済になると旦那が出所すると脅して借金踏み倒すと警告するのに、吉二郎はアラタマになびき、最後は刃物沙汰。
雁治郎の没落は時代を背負ったものなのだろう。丼池は株に手を出さないのが誇りだったのにと諭す司の話を聞かずに「勝負しまんのや」と眼を点にしている。金貸しが出入りするようになったら長いことはないと店員たちは心を離してゆく。三益は倒産させて儲けようと画策して悪宣伝。アラタマは雁治郎に「わてに借用書を書きなはれ、私が財産押さえて旦さんを守ります」と新手の提案で騙して「うちを本妻にすると嘘ついたやないの、これでアイコ」。このようにして糸偏景気は末期を迎えるのだった。その他、森光子の独楽鼠のような活躍も見逃せない。
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