[コメント] ホウ・シャオシェンの レッド・バルーン(2007/仏)
アルベール・ラモリス作『赤い風船』への形而上的オマージュに丹念な演出が光るも俳句のような短詩型にまとめるべきSO-SO作品
劇空間のドキュメンタリー化という手法でその即物描写に市民生活の日常的な滋味を抽出して流石のホウ・シャオシェンであるが、感傷的な視点の拠り所を排する様式を徹底するならばなお短詩型に凝縮してより形而上的なスケールの醸成を図るべきであった。言い換えるならば然るべきキャンバスの選択を誤った晦渋滲む小品であるといえよう。まあそれもオルセー美術館開館周年記念作品という性格のゆえか。ラモリス作『赤い風船』の形而上的オマージュたる所以は事象を即物的に描写しながらそこにフィクショナルでファンタジックなドラマを醸成するという点にあり、ならびに事象を見つめる視点フェーズの差異についての哲学的な問いを同じく持つことに由来する。しかし本作においては、その位相の共振関係というものが不明瞭に提示されてしまうため、残念ながら意図した劇空間の薫香には至らず淡白な印象を拭えない惜しい仕上がりとなり、シャオシェンのラモリスに対するオマージュの優等生的な答え方を見たという程度に留まるものとなった。しかしシャオシェンの事象を見つめる繊細なまなざしは神秘的な光明を感じさせまさに匠の域である。平易かつ神妙とは何とも神々しい。
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