[コメント] 石内尋常高等小学校 花は散れども(2008/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
だいたい90を超えている人が何を考えているのか、私たちはあまりに知らない。しかも、それを映像化してくれるのであるから学術的にも貴重な映画資料になりえると思う。とか、そんな文化的に捉えるのは置いといて、やはりこの年齢になると、撮れるものは限られてくるから、遺作のつもりで1作づつ創作しているのであろう。
で、彼の脳裏の中に浮かんだのは、郷里と小学生時代の恩師のことであった。やはり、最近のことより昔々の一番最初の思い浮かべたこと、悩んだこと、泣いたこと、楽しかったこと、郷里の自然、海、駅、学校の校舎、、。
大正末期のことらしいので、生活的にはみんな苦しいけれど、教室内の雰囲気でもみんな平等で、教師と生徒が一枚岩だったのが分かる。現代のいじめなんかは全く発生していない。子供にはいい時代だったんだろうなあと分かる。
先生は熱血漢で、サラリーマン先生なんかじゃない。映画ではむしろ親よりも人間教育をしているように思える。こういうのを見ていると、物質的に恵まれて来ると人間は捨てているものも多くなっているなあと気づく。
映画は初恋成就せずを明るく哀しく謳っているのだが、あっけらかんとしていいなあ。やはり大竹しのぶはうまい。うますぎる女優になっている。うまいのでちょっと臭いぐらいだ。大竹に押されてはいないが、優柔不断の青年を豊川悦司きっちりさらりと演じている。彼は透明感の出せる俳優ですね。実にいい。いい役者になった。
相変わらず六平直政も脇役でうまい。居眠り収入役がかなりいい。得な役でもあるが、、。でも、新藤はやはり広島の生まれで、戦争の悲惨さを描くときでも原爆をには目をそらさない。 大杉漣の顔のただれは忘れることは出来ないものなっている。露骨である。この辺りの怨恨は執拗である。
先生が地元を離れる際の元生徒たちの先生への思いは感動的だ。道端にたたずむ人たちも先生に頭を下げて送る。こんな美しい時代が日本にもあったのか、とそれだけで泣けてくる。
この映画は新藤の若かりし時の走馬灯のようなスケッチなのだろう。90を超えても人が一番生きていく上で肝心なものをしっかりと見据えていることが分かる。映像は澄み切っており、人の心も美しい。勿論95歳の老人の脳裡も衰えるどころかますます冴えているのである。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。