コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 夜の片鱗(1964/日)

タイトルバックが桑野みゆきの様々な顔アップ。最初は左向きの横顔。横顔から正面を向いたり、斜めを見ながら不敵な笑みを浮かべたり。これらは、街の女として通りに立つ姿だったことが、クレジット開けで分かる。
ゑぎ

 サラリーマン風の男−園井啓介が声を掛けてくる。お茶でもどうですか。喫茶店で園井は設計技師だと云う。ダムが専門。今は利根川が隅田川に流れ込む設備を建設している。つっけんどんな桑野、話を聞いていない。唐突に、友達の部屋に行かない?

 この映画、場面転換の際、青いフィルターがかかったように見せる処理と、ネオン看板の文字を撮った短いショットの挿入が度々ある。園井は終わった後に、桑野に対して、君はこんなことをする人ではない、みたいなことを云う。この時点で、いい加減なヤツだと私は思う。こゝで、桑野の回想が入る。6年前。19歳の終わり頃。女工だった頃。友達の岩本多代との会話場面だ。明るく屈託ない若者。冒頭のケダルさとの対比がよく出る。

 桑野は千石規子がママのバーでアルバイトをするようになる。こゝに客で平幹二朗が来る。しがないサラリーマンだと云う。20歳の誕生日。新宿に踊りに行かないか、と平から誘われる。ダンスホールの次はホテルへ。そこで押し倒される。それから会うたびに温泉マークへ。そのうち、お金を貸すようになり、平のアパートで同棲。平はサラリーマンなんかでは無く、地回りの、ヒメと呼ばれるヤクザだった。桑野も、洋裁学校の生徒とウソをついていたんだから相子じゃねぇか。

 そして、平が組へ納める金のために、つまり情人の面子のために、アパートで売春をさせられるようになる。白髪の男。手のシミ。さらに、外に立って欲しいと云われるが、断ると平に殴られて、父母の元に帰る。父親は河野秋武。桶職人か。妹弟もいる。幾日かすると、チンピラの東京ぼん太が迎えに来る。兄貴(平のこと)が会いたがっていると。仕方なく付いて行くと、組の二階へ。そこには男たちが10人ぐらいいて、輪姦されるのだ。幹部の木村功と若き菅原文太。木村も迫力があるが、菅原の狂気的なムードもいい。隣室で待機させられた平の動揺ぶりと、彼が桑野をアパートに連れ帰るシーンの見せ方は、丁寧過ぎて、まだるっこしく感じたが。かくして桑野は街娼になる。

 この一連の回想シーケンスの途中で、何度か園井と桑野の2人の場面が挿入される。それは夜のシーンだけでなく、昼間に運河のような場所やデパートの屋上などでデートするシーンもある。子供と夫を連れた岩本に再会した場面では、園井が、もうすぐ結婚すると嘘を云う。しかし、全般に園井の科白が教条主義的でイヤらしいと感じる。北海道への転勤に付いて来て欲しいとも云うが、この男に付いて行っても良くないんじゃないかと思ってしまった。はたして桑野はヒモの平を残して園井と逃げることができるのか。結末は書かないが、ちょっと予想していたものでは無く驚いた、というのが私の感覚だ。ただし、ラストもナレーションが説教臭く感じられダサいと思った。

 と云うワケで、作劇的には違和感のある部分が多々ある映画だが、成島東一郎の撮影は見どころ満載だ。冒頭の街に立ち、ゆっくりブラブラ歩く桑野をアオリ気味の構図で追いかける部分なんかも良いと思うが、屋内の会話シーンで、望遠レンズの複数台カメラ撮影によるアクション繋ぎを行っているように見えるシーンが何箇所もある。平が桑野に街娼になることを迫る場面など。これは迫力のある画面造型だ。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。