[コメント] ダイアリー・オブ・ザ・デッド(2007/米)
観る度に感想が大きく変わった映画です。1度目より2度目、2度目よりも3度目のほうが面白く観れました。感想は色々ありまして、まとめるのはとても難しい作品なので、箇条書きとします。重要な情報の記述は避けているつもりですが、微妙にネタバレ的な事は書いています。ご注意を。
まずこの作品には、行動原理が不可解と言われがちな要素があります。ゾンビの前で、主人公が危険を承知でカメラを回し続けるシーンのことです。これには冒頭の自主制作映画を撮っている描写が関係していると思われます。おそらく主人公は自作の映画の出来に満足していなかったのです。キャストの一人にバカバカしいと言われるなどして、人の注目を浴びる映像を撮りたいという衝動の駆られたのではないか、というのが私の見解です。それに、自主制作映画で撮られているジャンルは、ミイラが登場するホラー映画でした。憧れのモンスターを現実世界で撮影できたことが嬉しくて、狂ってしまったのかもしれません。もう一つの理由としては、自分の撮った映像が注目されることによって満たされる名誉欲。こういった伏線があるにはあるのですが、行動原理の源泉描写は少々足りないと思います。行動原理の数を増やす必要は無いと思いますが、もう少し会話なりで強調するべきだったと感じます。
テーマについてですが、前作で扱っていた「変化を見てみぬふりをする人」を改めて使用しているように思えます。ただし、作風はかなり変わっています。特にゾンビに対する扱いは、旧三部作の色合いが戻っているように見えます。ランド・オブ・ザ・デッドでは、人間よりもゾンビに対して肩入れしすぎた感じを受けました。ゾンビによる反乱はロメロの言う「人間よりかは純粋な本能で人を殺すゾンビに同調する」の考えを壊すようなものです。ゾンビに意志を持たせる事により、ゾンビも結局は「劣化版人間」となってしまうのではないでしょうか。今作はあくまでも、人間の反応を引き出す役割に徹しているので安心しました。
ストーリー的に言うと、もうちょっと娯楽性があっても良いかとも思いました。例えば、主人公がカメラを仲間にわざと壊されて、POVから通常のカメラによる撮影に切り替る。そして「お前の持ったカメラをよこして撮影を続けさせろ!」と口論になる。または、ゾンビの群れに主人公がカメラを落とし、それを拾うために必死の格闘を繰り広げる。といったように、色々やりようがあったような気がします。POVの味気ない映像を見続けた状態で、突然通常のフィルムに切り替わり、迫力ある格闘や討論がはじまれば緊迫感が出ると思います。その流れはこの主人公の持つ個性が無いと不自然なので、今作ならではの実験的試みになったように思えます。
またこの作品はインターネットが大きな役割を成していますので、壮大なストーリーに発展していくような期待を持ってしまったのも初見の印象の悪さに繋がりました。予想の反してスケール感に乏しい展開をしていったため、尻すぼみ的な印象を受けました。「期待倒れの尻すぼみこそがインターネットに抱いているイメージでありそれを表現したまでだ」とロメロに言われてしまえばそれまでですが、ストーリーが犠牲になってしまった感は否めません。
ストーリーの転換点となる場面の舞台も、とても地味だと思います。「車の中でモニターを通し情報を得たことによって行動を起こす」「衝動的に家に帰りたくなる」「薄暗い殺風景な道路で、ゾンビを轢いたり州兵と出会ったりする」といった具合です。
そして全体的な印象は「核心の存在しない筋」です。フワフワしたイメージで、シリコン素材の道路の上で、バイクを運転しているようなストーリーです。それを言えば傑作たる『ゾンビ』もまた核心に向かうタイプの映画ではありません。しかし『ゾンビ』は登場人物を建物に篭城させることで、数々の困難がゴキブリホイホイのように集まってくる構造が面白かったのです。今作は90分程度の尺でありながら、あちこちに移動してしまいます。それもまた迷走する現代の若者を表現しているようにも思えますが、忙しないイメージは拭えません。それに、ロメロの現代の若者に対するイメージが良くないためか、若者が観ても感情移入の出来ない主人公を創っている点が、何よりも娯楽要素を殺しています。
否定的な意見ばかりを述べる事になってしまいましたが、これらの風変わりな要素からなる今作を観終わった後の余韻は非常にねっとりとしておりまして、羅生門的なものがあります。視聴者は煮え切らない気持ちでエンドロールを眺める事になり「結局どうすれば良いんだよ」と、体を神経質そうに揺らしながら煙草に火をつけたくなるのでありまして、その感覚を楽しめるか否かでこの作品への評価が決まると思います。釈然としないものが少なからず残る作品でしたが、それこそが意図したことなのかもしれません。
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