[コメント] フレンジー(1972/米)
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奇怪な料理名は、だんなさんにとっては怪しげな魔女の呪文にしか聞こえなかったんだろうなぁ。コウモリの羽とかトカゲの尻尾とか入ってそう・・・。
満を持しての帰還を宣言するかのような、冒頭の空撮。久し振りに母国の地を踏んだヒッチが目のあたりにしたロンドンは、どのようなものだったのだろう。
皆さんが言及している「見せない」演出の秀逸さがあるとはいえ、全編を通せば露骨な描写も少なくない。短絡的に感情を爆発させる主人公も含め、表向きのテイストだけで観ると決して好きな映画とは言えないのですが、本当にそれだけなのでしょうか。
決して主人公にはなり得ないけど、ヒッチが本当に描きたかったのはあの警部だったのでは。スコットランドヤードは言ってみればイギリスの歴史と伝統の象徴。表向きはかつての趣と(おそらく)様変わりして、進歩に足並みを揃えたそのモダンな威容。しかしその建物の中では、いかにも英国人風にブレックファストをとる警部(横で眺める同僚がまたオカシイ)がいる。
思うに、短絡的で無粋な主人公と英国紳士の典型のような警部、女性をないがしろにする男と(料理に辟易しても)ワイフを敬う心を忘れない男の対比を通して、当時のロンドンとかつての伝統との対比を描きたかったのでは、と。ヒッチの愛した「毒」は節度を弁えた大人の粋な遊びで、こんな短絡的に人を不幸にするものではないはすだ、と。
それを考慮に入れれば、スパルタのキツネさんが言及している冒頭の演説の謎も多少解けるような気がします。「ロンドンにきれいな川を取り戻そう」。ヒッチの英国への帰還である本作には、ロンドンの街から失われつつある伝統への回帰の願いがさりげなく込められている。そんな気がしました。
そんな粋を忘れないヒッチが大好きです。
(2007/2/12 再見の上、4点→5点に変更)
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