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[コメント] 旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ(2008/日)

ユーモアと、倫理。「これを見せたい」という意志をこれでもかと主張する演出に抑制が利かない結果、スローやストップモーションの生硬さと執拗さや、動物を画的に演出しすぎな面も感じられる。だがこの過剰さが、多幸感と野生的なパワーをもたらしてもいる。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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冒頭の、箒で掃かれるカブトムシの屍骸や、押し入れの中の大量の虫ワールドに囲まれて満足げな少年の表情という印象的な画から突然始めるケレン味には期待させられる。尤も、「これを見せる」という意図が明確かつストレートなこの映画、動物の仕種や表情を執拗にクローズアップで追ったり、コミカルさの演出に組み込む様には、安直な擬人化スレスレの危うさを感じなくはない。だが、その危うさとコミカルさの権化のような長門洋之のアッサリとした死なせ方や、その後の葬儀での新人・吉田(中村靖日)の「動物との、越えちゃいけない一線を越えた報いを受けたんだ」という発言に端を発した職員同士の遣り取りには、この映画の一つの倫理が感じられた。そこでのベテランと新人の対決の仕方や、その後の、墓前に立つ柳原(岸部一徳)に黙って深々と頭を下げる吉田、柔らかな表情で手招きする柳原、といったドラマの抑制と深みは、一見稚気に溢れた監督・マキノのもうひとつの面が滲みでた名シーンだ。ラストで園長(西田敏行)が動物園を去るシーンで、彼の不在を悲しむように動物たちが吠える様も、本来ならベタな演出だと思えるところだが、動物たちの咆哮のあまりの激しさは、そのナマな野生の発露が、甘い感傷など突き破ってしまっている。

(評価:★3)

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