[コメント] スラムドッグ$ミリオネア(2008/英)
映画を見終った人むけのレビューです。
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ダニー・ボイル監督が関わった作品は『28日後』、『28週後』しか見たことがなく、アカデミー賞を多数さらったこの作品の監督が彼だったと聞いても、今ひとつピンと来なかった。
そういうわけで、大した期待もなく見たこの作品だったのだが、見る前と後では大違いで、最初のシーンから最後の集団舞踏まで一瞬も気を抜くことなく、スクリーンに釘付けにされてしまった。
ストーリー・構成・演出・編集・カメラワーク・映像の全てが、これ以外にはあり得ないと思えるほど密度の高い組み合わせで積み上げられ、映画と一緒に疾走している自分を感じる余裕すらないほどの没入感を味あわせてくれる。映画的技法もさることながら、登場人物の人物造形や集団舞踏など、インド映画のパターンを踏襲しながらも、いわゆるインド映画からは一歩抜き出た現実感がすばらしい。
画面から匂ってきそうなインドのスラム街を舞台に、過酷と言うにはあまりにも過酷な境遇を生き延び、生き抜く3人の子供達の姿から目が離せず、その彼らのストーリーと重ねるように描かれるクイズ番組の成り行き、そして、余りの不運な境遇が生み出した皮肉な幸運による回答がインチキと疑われての警察での取り調べが折り重なって進行していく。その過去と現在の行ったり来たりがびっくりするほどすんなりと頭の中に入ってくる構成そのものに感動した。そしてオチが白々しいほど読めてきた終盤においても、最後の最後の場面では吐き気を催すほどの緊張感を覚えてしまった。
物語の局面は常に兄の中にある良い心に左右されるのだが、これは人間そのものに希望を見いだす監督自身のメッセージと感じ、非常に共感した。
ダニー・ボイル監督が、別人と思えるような作品を作ったことに驚き、感動する一方で、音楽を担当したA.R.ラフマーンとの久々の再会にも感動した。彼の作品を耳にするのは『ムトゥ』以来のことであるが、インド的なものと西洋的なものが混沌とした独自の音楽は更に洗練を遂げていて、作品のテンションを大きく高めていたと思う。
最後の最後にサプライズ的に仕掛けられる集団舞踏は、インド映画への敬意の表れであり、そして本当に楽しいパートなので、途中で席を立たないことをお勧めしたい。ここまで面白い映画に次に会えるのはいつだろうか。
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