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[コメント] 熱泥地(1950/日)

1950年の初公開時のタイトルが『熱泥池』(ねつでいち、3文字目は「池」)で、上映時間は101分と記録されているが、私が見たものは、『現金と美女と三悪人』と改題され、62分に短縮された再公開版だ。この約40分短縮版しか現存しないのか。
ゑぎ

 まず改題について。確かに『熱泥池』よりは、客が呼べそうなタイトルだし、「美女」は、ヒロインの利根はる恵のことを指しており、劇中、女優は、ほゞ彼女一人しか出こないので明白。しかも、私が今まで見た利根の中でも、最も魅力的に撮られていると感じられて、少なくも私は、美女という言葉を首肯する。ところが「三悪人」だ。これが疑問。なぜなら、本作中、藤田進東野英治郎の2人が悪人であることは間違いないのだが、3番目の悪人が不明確だからだ。多分、終盤の藤田と東野の対決場面で、唐突に東野の相棒として現れる伊藤雄之助が3番目ということなのだろうが、この短縮版ではわずかワンシーンのみの出番だ。恐らく、初公開版では伊藤のシーンももっとあったのだろう。何かの事情でカットされたのだろうと推測する。

 開巻は船の煙突。寝台の女性−利根はる恵とソファに寝る男−藤田進。利根はスリップ姿での登場だ。藤田が唸ったり、唐突に「わー!」と叫んだりするのがおかしな演出。2人でバタバタした挙げ句、利根は割れたグラスで腕を怪我する。その治療をおこなったのが、船客で元医者の東野英治郎だ。また、利根の怪我は早々に反故にされ(腕の怪我は東野の登場にのみ機能する)、彼女が甲板で出会う船員が堀雄二。こゝで、利根がショットグラスに入った酒を甲板から海にこぼすという場面があるのだが、しずくが白波に落ちていくのを真俯瞰でとらえるショットが出てくる。『若い人』(1952年)で教室の窓からチョーク?を落とす場面の真俯瞰ショットを想起する。このあと、酔った藤田に堀は殴られ、やゝあって、逃げた利根は、シャワー室へ入る。するとそこには堀がいる。利根は意図せずシャワーのバルブ(ハンドル)を回してしまい湯が出る。すごい湯煙の中、2人は抱き合う、というこの有無を云わさぬ展開は悪くない。

 船の行き先は北海道で、地図に室蘭、静内、広尾と大きめの文字が浮かび上がる。広尾町の旅館の時点で、堀の存在はどこかに行ってしまうが、唐突に砂金取りの話になり、藤田と利根に東野も加わって、山の中へ入っていく。以降ラストまで、この十勝地方の山中が舞台となる。まずは、山の中を行く一行のショットの背景がマット絵との合成で、この特技部の仕事は一つの見どころだろう。なぜか藤田は、砂金取りを早々に諦めたのか、酒場を開いている。この場面での利根の衣装が、セーターにバギーパンツみたいなルックスでこれがいい。上半身のラインがよく出ていて、とてもセクシー。これも見どころだ。冒頭のスリップ姿以上に胸の形に目が行ってしまう。また、終盤に向かって、どんどん服が汚れ、破れていくのが素敵。

 後半も唐突なプロットは目白押しで、例えば、藤田から暴行されそうになった利根が、逃げて入ったサイロの中に、アイヌの人の設定か、小杉義男がおり、山の中を一緒に逃げるのだが、途中、急に恐ろしいものを見たというリアクションがあり、これが意味不明のシーンになっている。映されたのは、木の歪んだ画面。あと、酒場に進藤英太郎が率いる男たちが沢山いる場面も中途半端。

 そして、クライマックスの藤田と東野の対決シーケンスは2人が泥々になって殴り合う場面などもあり、とても真剣に作られている。ラストショット、崖上の馬のロングショットも、画面下半分はマット絵か(崖下に熱泥池がある)。尚、全体に演者は皆、大真面目に演じていて、荒唐無稽なプロットとのギャップに唖然とさせられる。特に、痩せこけて見える東野のルックスが怖くていい。あと、伊福部昭の劇伴は、こゝでも『ゴジラ』を予期するもので、メロディはいいけれど、ちょっとくどい。

#主な映画サイトの出演者情報に田中春男山本礼三郎の名前が見られるが、40分短縮版に2人は出ていない。カット部分で出ていたのかも知れないが、田中と山本は企画段階の配役で、撮影時には小杉義男と伊藤雄之助に交代した可能性も高いと思う。

(評価:★3)

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