[コメント] デッド・エンド(1937/米)
だが、しかしこれは、ワイラーの中でも良く出来ている作品だろう。舞台背景からみで本作が『街の風景』と異なるのは、僅少とは云え屋内シーンがあることだ。
開巻はミニチュアの摩天楼。これを下降移動し、屋根から町の俯瞰を後退移動する。この導入部も『街の風景』のそれを思い出させる。警官とビルの仰角ショット。川岸に「デッド・エンド」の看板。川の向うの風景はスクリーン・プロセスか。どん詰まり(デッドエンド)がイーストリバー。通りには安アパートと高級マンションが共存する。数少ない屋内シーンは、ほゞゴミだらけの安アパートの中と通りにあるカフェ店内。高級マンションの中にはカメラは入らない。その通用門はホテルのドアマンみたいな恰好をしたワード・ボンドがしっかり守っている。これも象徴的だ。カメラも絶対に入れないという態度に見えて来る。また、安アパートにカメラが入るのは、ワイラーが階段好きだからではないかとも勘繰る。狭い階段を使って、高低を活かした演出がやりたかったのだろうと。高低で云うと、高級マンションの2階あたりの大きなテラスやもう少し上のバルコニーにいる人物、さらに上階でパーティをやっている画面に映らないリッチな人々と、通りでたむろする貧乏な少年(悪ガキ)たち等を対比して見せる俯瞰仰角が象徴的に使われている。
そう、本作もトーランドの刻印と云うべきスペクタキュラーな仰角ショットが頻出する。例えばハンフリー・ボガートと相棒のアレン・ジェンキンスの登場は、悪ガキたちのシーンで足からティルトアップし仰角で捉えられるけれど、この後、とびっきりアイキャッチする仰角ショットが2度、ボガートに与えれているのだ。具体的には、彼がかつての恋人フランシー−クレア・トレヴァーに再会する直前の、アパートを背景にしたショット。もう一つは、終盤クライマックスの導入部と云うべき、高級マンションを背景にして立つショットだ。
このように、本作のボガートは、ビリング上もプロット上も主役とは云えない(いずれにおいてもシルヴィア・シドニーとジョエル・マクリーが主役と云うべきだ)が、しかし一番良いシーンが与えられていると私には思える。上記の仰角ショット以外にも、アーチ状の天井を持つ回廊のような空間を舞台にしたトレヴァーと2人で会話するシーンも特筆すべき良い画面だ。少し引いたツーショットとアップの切り返し。こゝだけ特別に、トーランドのカメラがゆっくりとドリー寄りをする。本作はデッド・エンド・キッズと呼ばれる悪ガキたちを生んだ映画という価値もあるけれど、何と云ってもボガートのピカレスクな魅力を引き出した映画としての価値が高いと私は思う。
ちなみに、回廊のようなスペースは、他にもシドニーとマクリーの会話場面でも実にいいロケーションになる。シドニーが子供の頃からの空想の話をし、涙をためる演技・演出。また、トレヴァーはワンシーンのみの出番でオスカー・ノミニーだが、ボガートの母親役−マージョリー・メインもワンシーンのみで、このプレゼンスもトレヴァーと甲乙つけ難いと思う。マージョリー・メインがオスカー・ノミニーでも不思議ではない。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・マクリーが想いを寄せるケイはウェンディ・バリー。このキャラがイマイチ。
・序盤にシドニーと窓越しに会話する隣人の女性はエリザベス・リスドンだ。
・序盤から終盤まで度々出て来る警官はジェームズ・バーク。
・高級マンションの住人でシドニーの弟に手を刺されるのはマイナー・ワトソン。
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