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[コメント] レッドクリフ Part II ―未来への最終決戦―(2009/中国)

例えばこれを作ったのがアン・リー監督だったら、尚香を男にしてしまって、さぞかし見応えのある物語を作っていたかもしれないですね?
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 Part1とPart2合計して5時間を超える大作となったわけだが、一作目は基本的に個々の武将や知将の個性を存分に引き出してくれているから、二作目でその下敷きを使っての集団戦の派手さに持っていったのは正しいやり方だと思う。仮に時間を縮めて、二作目の方をベースに作ってしまったならば、個性を観られないまま、単なる派手な作品で終わってしまっただろうから。

 …なんか奥歯に物が挟まったような言い方だな。

 有り体に言ってしまえば、二作目の本作は、単に派手な“だけ”の作品でしかなくなってしまったというのが結論。主要キャラの個性も出せてないし、駆け引きについても非常に上っ面に終わってしまってた。

 更に、主要キャラが個性出せない分のサービスか、サブキャラである尚香や小喬と言った女性キャラにはえらく時間を使って描写しているのだが、これが蛇足も良いところ。三国志という大きな物語を描いているのに、そんなありきたりな物語を延々と描かれても、何の感慨もない。劉備の裏切りの意味合いをこそ、本作ではもっと細かく描くべきだったのだ。

 多分、これはウー監督の挑戦だったのだろう。出世作である『男たちの挽歌』以来、ウー監督作品は殊更“漢(おとこ)”について描いたものばかりで、登場する女性は話の中心にはならないか、あるいは『ペイチェック 消された記憶』のユマのように、男顔負けのアクションシーンをこなす人ばかり。それで「男しか描かない監督」と言われてしまってるのだが、その悪評を吹っ飛ばし、「どうだ。女も描けるんだぞ」という自己主張の為だったかと思われる。

 …でも、これも結論を言わせていただければ、ウー監督は「男しか“描かない”」監督ではなく、「男しか“描けない”」監督であったと言う事を世に示してしまった。物語上、全く尚香と小喬の物語は意味が感じられないのみならず、蛇足以外の何者にも感じられない。

 ラストの物語展開についてもかなり疑問あり。数十万という人間、その中で親友まで殺されていたあの状態で曹操を殺さずに逃がすという選択はまずあり得ない。ドラマ性を重要視するために周瑜と曹操の直接対決を描きたかったんだろうけど、それがラストシーンを滅茶苦茶にしてしまった。ここも相当な問題ありだと思うぞ。

 でも、少なくとも、最大の見所は決して外してはいなかった。これらの細かい文句を吹き飛ばしてしまうパワーが戦いの派手さにはある。一作目と較べ、今度は夜戦で火を使った派手な戦闘シーンと(爆発はやり過ぎにせよ)、人海戦術を用いた人の群れが直接ぶつかり、肉と鉄とが交差すると言った、細かい描写もきちんと描いてくれている。あの集団戦の中で、一人一人の個性まで描けるような人は、現在ではウー監督くらいなものだ。少なくともこれに関しては文句の言いようがない。ほんと、いいもん見せてもらった。って感じだ。

(評価:★3)

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