[コメント] ミルク(2008/米)
自分に正直に生きることの強さと、自分を偽って生きることの弱さを、これほど見事に対比させた物語ってないですね。
みんなが迷って、勇気を持てないでいるときに、強く、確信して道筋を示してくれる人って、必要だと思った。
映画では明示的には描かれないので、ショーン・ペンとジェームズ・フランコの優しげで曖昧な微笑(ゲイを演じる場合に必須の演技)のうちにそれを読み取るしかないのだが、刹那的な出会いに身を任せた二人のこの上ない自由さが、それまでゲイであることを隠して暮らしてきたハーベイ(ペン)に、強さと確信を与えた、ということなのだろう。ゲイを隠して生きることが正しい、もしくは生きていくための方便と考えていたはずの彼が、むしろ自分を偽ることの方が間違い、そしてそれを公に示すことの方が人々に力を与える、と思うようになったのだから。その萌芽はきっと、自分で自分をゲイであると認める、ことの内のどこかにあったのに違いないが。
ゲイであるとかないとかを越えて、彼から勇気をもらった人の多さが、最後の光の行進となって表れたのだ。私も、この映画から幾ばくかの勇気をもらった。ん?ゲイじゃねえけど。
だが彼の強さが、彼の周りのすべての問題を解決するわけではないし、かえって他人を弱さに追い込んでしまうこともあった。また彼の強さこそが自らの早すぎる死を招いたのだとすれば、彼を愛し、彼が彼なりの人生を全うすることを望んだ近しい人々にとって、彼の強さは必ずしも善とは言えなかったかもしれない。世の中ってのは、善と悪、強さと弱さが、いろいろ絡み合って、複雑だ。そんな中でこの映画は、つまりこのハーベイの物語は、物語が到達しうる一つの美しさ、に到達していると思ったよ。
80/100
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。