コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 偽りの花園(1941/米)

米国南部らしい木立(スパニッシュモスが垂れ下がった枝)を仰角で横移動するショット。あゝファーストカットからまさしくトーランドのサイン(署名)のようだ。トーランドにとっては『市民ケーン』の次回作にあたる作品。
ゑぎ

 本作でもディープフォーカスの画面が基調となっている。勿論、ワイラーはウェルズ(やフォード)と比べれば常識的(通俗的)なので、あのようなトリッキー(複雑怪奇)な使われ方をした画面はない。『市民ケーン』と比べてのトリッキーさの相違ということで云えば、移動撮影についても云える。『市民ケーン』に魅せられるのはフォーカスの演出以上に移動するカメラの視点だ。

 もっとも、本作も仰角俯瞰の見どころは溢れている。それは矢張りワイラーが階段好きであることが一つの要因で、本作の主人公はベティ・デイヴィスであることは間違いないが、同時に、彼女の住む邸宅の階段が主人公と云っても過言ではないぐらい画面を支配する。例えば、一階ロビーの人物と階段上の踊り場にいる人物の会話シーンを、肩なめのディープフォーカスで切り返す(俯瞰と仰角)、といった演出が無数に出て来る。あるいは、一階のソファで座っている人物を手前に映し、画面奥には階段を配置して、階段上の人物はフォーカスを外して映しこむといった画面も数回あり、ディープフォーカスの画面以上にインパクトのある演出になっていると思う。

 他にも、2階の窓やテラスの人物と、地上(玄関前)の人物との会話場面も繰り返し描かれる。例えば、冒頭は馬車で帰宅するデイヴィスの娘−テレサ・ライトのシーンだが、先に隣家の上階の窓にバーディ伯母さん−パトリシア・コリンジを、次に別の窓からベン伯父さん−チャールズ・ディングルを出現させて、さらに自邸の上階のバルコニーに母親−デイヴィスを登場させる。この重要人物3人をいずれも仰角俯瞰の連打で見せる冒頭は見事な演出だ。

 また、仰角俯瞰からは離れるが、他の道具立てとして、鏡やカーテンを使った画面の面白さも書いておきたくなる。鏡はデイヴィスが化粧するシーンなどでも使われるが、バーディ伯母さんの夫・オスカー伯父さん−カール・ベントン・リードと息子のレオ−ダン・デュリエが、洗面所で背中合わせになって髭をあたるシーンにおける合わせ鏡の使い方はとても目をひく画面だ。カーテンで云うと、ディナーの後で、レオがカーテンに隠れながら顔を出して喋る場面があり、その後、カーテンの陰からオスカーが顔を出さずに妻(バーディ)に話すといった使われ方をする(この後、バーディは夫のオスカーから強くぶたれる)。この演出も特筆すべきと思う。

 しかし、本作で私が最も亢奮したシーンは、中盤になって満を持して登場したデイヴィスの夫・ホレス−ハーバート・マーシャルが、銀行の金庫から7万5千ドルの債券がなくなっていることをデイヴィスに告げるシーンだ。こゝで、振り返るデイヴィスのアップの顔。全編で彼女に一番寄ったショットがこれだと思うが、こゝから笑い始めるデイヴィスにはゾクゾクする。実は、中盤はデイヴィス以上にライトやパトリシア・コリンジが際立っていると感じられていたのだが、こゝからデイヴィスが取り返す。終盤はコリンジが消えてしまうし、結局、ライトもその友人のデイヴィッド−リチャード・カールソンも人物としては面白みのない造型で、やっぱりデイヴィス(と、加えるならマーシャルとディングル)が画面を圧倒する。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。