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[コメント] 戦国群盗伝(1959/日)

凡庸な監督のおかげで後世に名を残していないが、山中貞雄脚本作を黒澤明が潤色したリメイク作。両者の研究資料としても面白いし、話も盛り沢山で面白い。なにより三船を見ているだけで楽しい。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
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山中貞雄4週連続特集上映の一つとして鑑賞。オリジナル『戦國群盗傳』は残念ながら未見。 (オリジナル版は総集編としてビデオが出ているようだが、本当は前後編の2部作だったらしい)

オリジナル版は、鳴滝組共同ペンネーム梶原金八名義の脚本だが、リメイク版は山中貞雄とクレジットされている。潤色は黒澤明だが、黒澤はオリジナル版でも助監督として参加していたそうで、「現場はとても勉強になった」とコメントを残しているそうだ。

黒澤が書き直している箇所は比較的少ないそうで、特集上映に併せて行われた西山洋市氏のトークショーによれば、最大の改変ポイントは志村喬演じる父の死に関わる部分だという。 そしてそれは、山中貞雄に描けなかった物を、黒澤明が見事に書き加えたのだ、とも。

いきなりネタバレなことを書くが、オリジナル版では父は部下に謀殺され、それを弟・次郎が聞かされるという流れなのだが、本作では次郎自身が手をくだして父殺しをする。 これが黒澤の大きな改変ポイントで、山中貞雄に描ききれなかったのは「悪」だったのではないか、と西山氏は読み解く。

たしかに、現存する3作品やリメイクされた脚本作(例えばテレビドラマ「盤嶽の一生」)を観ると、そこに登場する悪はストーリーを転がすための設定としてのみ存在し、人間の業としての「悪」そのものを描こうとしているわけではない。 その点に関しては、「悪」そのものをテーマに据えることが度々あった黒澤明と大きく異なる。 言い換えれば、山中は人間の「弱さ」を直接的に描写したが、黒澤は弱さを「悪に堕ちる」ことに置き換えたとも言える。 (ちなみに、山中と黒澤は1歳しか違わない)

山中貞雄的に言えば、オリジナル版は『河内山宗俊』と『人情紙風船』の間に書かれている。構成も『河内山宗俊』に似ていて、前半はいかにも山中的な軽妙な展開、後半はまるで『蜘蛛巣城』。

蜘蛛巣城』!

こうしたダイナミックなストーリー展開といい、(江戸時代ではない)戦国時代の設定といい、野武士といい、黒澤は多大な影響を受けているのかもしれないなあ。

(09.06.20 ラピュタ阿佐ヶ谷にて鑑賞)

(評価:★4)

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