[コメント] こころ(1955/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
いかにも映画にしにくい作品だと思うんですね。
そもそも夏目漱石ものっていうのは映画になりにくい。
そして夏目漱石自身の異常体質について言及できないものだから、なかなかその作品の本質に迫りにくい。
ということで、この映画はこれが精一杯だと思います。
この映画を奥深く体感するためには夏目漱石そのものに近づかないとなかなか理解が及びにくいと思いますが、若き日の市川崑監督はそれに挑戦したとい言えるでしょう。
この映画の主人公は本来安井昌二演じる日置なんですね。原作もそのような形式だったと思います。
しかし映画では先生(森雅之)の目を通して、自分が今職にもつかずに過ごしている理由を回顧形式で映像化しようとしています。
そしてその先生のよりどころのない実態に若き日に失った(死なせた)友人の存在があることが映画の後半からどんどん描かれてゆく。
この友人と先生の関係が、先生の妻との関係に大きく寄与している、というお話なんですね。
すごいお話だと思います。
性と死
という問題がその人物像の生い立ちを彷彿とさせて、格差問題などが絶妙に表現されていて深いお話だったと思いますね。
それにしても森雅之という人は、こういう神経的な性格の人物を演じさせると絶品です。新劇出身で演技派であることはだれもが認めるところですが、『白痴』とか『浮雲』とか、じめじめした演技については見事といほかありません。
そして三橋達也も、彼の作品群でいえば『洲崎パラダイス 赤信号』で演じた役にも重なる悩み多き存在。
ようするに時代がそんな人物を作り上げたとでもいうべきなのでしょうか?
そうした総合的な見方も含めてこの映画の重さは現代にもやや通じる面があるように思えますね。
2011/04/11 自宅
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