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[コメント] 日本橋(1956/日)

四半世紀以上前に名画座(多分、大井町)で見ていて、柳永二郎の奇矯なキャラと、ヘンテコな様式美の演出ばかり印象が強く、失敗作だと思っていたのだが、再見すると、なかなか面白い、市川崑とすれば、良作の部類だと認識あらためました。
ゑぎ

 まず本作は、圧倒的に淡島千景の映画だ。実は、淡島以外にライバル芸妓の山本富士子、淡島をお姉さんと慕う若い芸妓の若尾文子、この三人の女優を見直したくて再見しようと思ったのだが、出番の重要性を比較して云えば、完全に淡島の一人勝ちでした。だいたい、路地にたたずむ淡島から始まる映画なのだ。尚、三人とも、山本でさえ、あんまり綺麗に撮られていない、と私は思った(同時期の他の出演作と比べれば分かると思う)、これは、市川らしい、いけずな演出の一つなのだろうか。あ、山本さえ、というのは多分に役柄的な話です。

 あと、男優では、ほとんど品川隆二と上記の柳永二郎ぐらいしか役割がないのだが、この二人は対比するかのように、綺麗と汚いが過剰に演出されているのだ。つまり本作の品川は、とても二枚目に描かれている。

 様式美ということについて云えば、全編に亘って演劇的照明が使われていて、鏡花らしい幽霊譚の雰囲気も垣間見えるのだが、この部分は結局、腰砕けに終わっており、至極残念なのだ。この点が一番宜しくないかも知れない。

 美術装置では、冒頭やエンディングでも印象深い、路地の造型がすこぶる良い出来だが、それ以上に、劇中何度も出て来る、都電軌道も敷かれている橋(日本橋ではなく「一石橋」)のセットが、背景の書き割りを含めていいと思った。特に、淡島と品川が初めて会話するシーン、警官の船越英二や遅れて若尾も加わるシーンがいい。そして、本作のショットレベルでの白眉は、雪降る中、この橋を渡る赤い傘をさした若尾の横移動ショットだろう。美しい。思えばこれらシンプルにデフォルメされた美術装置について今回は楽しめた、という感覚だ。いきなりの長ゼリフの挿入や、市川らしいアップの多用、そして、柳永二郎の造型については、やっぱり感心しませんでした。

#その他の配役等を記述

・山本のお母さんは浦辺粂子。旦那は高村栄一

・淡島のおばさん(蒟蒻島のおばさん)に岸輝子。若尾のお祖父さんは杉寛

沢村貞子が女将のお座敷の客に潮万太郎

平井岐代子が女将のお座敷シーンには、伊東光一杉田康早川雄二らがいる。

(評価:★3)

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