[コメント] 狼の死刑宣告(2007/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
SAWシリーズを手掛けたジェームズ・ワン×街の暴れん坊ケヴィン・ベーコンのタッグや如何に!ということで観賞したんですが、結論からいえば、うまさ半分まずさ半分で、何とも中途半端な出来でしたな。
まず、良いところから。
誰もが評価しているポイントですが、立体駐車場での長回しは本当に素晴らしい。『トゥモローワールド』を彷彿とさせる緊張感とテクニックに満ちたシークエンス。全体的にディティールの描き込みが気のきいた作品であり、最終血戦に向かうベーコン氏のトラヴィス的剃髪の結果としての後頭部の剃り残し、買った銃の説明書を熟読(職業柄、リスク管理は徹底している)、など擽りを随所にいれてくるんだが、この長回しにおいても、逃げながら車の防犯ブザーを鳴らす、という普通ちょっと考え付かない妙技によって、主人公のテンパリぶりが如実に伝わってくる。ほんと、お見事。
あと、やっぱベーコンのおじきがいい演技してんだ。彼をみてると「ギラリ」という鋭い目線を表現するときの擬態語がそのままスクリーンに投射されているような、そんな印象を受ける。実にスリリングな役者さんです。
まあ、良かったのはそれくらいで、あとは雑味の部分。
音楽がださいよ。英語詞だから何言ってるか判らないけど、作品のトーンと明らかにそぐわないメッセージに満ちたジャンルの音楽ということだけはわかる。
あと、警察が無能すぎる。あんなクソビッチに人に説教垂れる資格はねえよ!ヴィジランテ映画には「不誠実で無能な権力組織」の存在はつきものだけど、あそこまでノータリンだと見てるこっちの作品世界への没入を著しく阻害するから!やめてくれ、ほんと。
極めつけは、ビジュアルの割に仕事がぬるいギャング団ね。喧嘩の鉄則は「仕返ししようと思わないくらい、徹底的に」が基本でしょ?ならトドメをさせよ!なんで、肩にいっぱつ銃弾あてただけで満足してんだよ!馬鹿なの?
さて、改めて結論。
全体的に、「木をみて森を見ず」というか、描きたいことがぼやけてる印象を受けた。 道徳的・教訓的な要素をおすのか、カタルシスムービーにしたいのか、よく言えばニュートラルだけど、悪く言えば中途半端。
父親映画愛好家としては、やっぱりベーコン氏の情緒的な部分にもう少し絞って作品世界を形成してほしかった。そもそも、葛藤が少なすぎるよ。復讐鬼と化していく過程が何となく成り行きまかせなもんだから、法とか社会規範を超えた「己の正義」に従う、というビジランテ映画のエッセンスが弱い。
「子供が殺された!妻が殺された!一人残った息子は意識不明の重体だ!法律は復讐を禁じている。常識にあてはめれば、むなしいだけだ。しかし…それでも俺は殺るんだよ!」
という悲壮な決意をもって最終血戦に向かうベーコンおじきが観たかった。以上。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。